鹿島美術研究様 年報第40号(2022)
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■ ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■1920年ではまだ早く、それよりもかなり遅いのではないかという印象を持っている。チタニウムホワイトについて詳細に調査し、日本における普及時期を明らかにすることができれば、ジンクホワイトの場合とは違って、その作品の制作時期を推察する材料になるのではないかと思われる。作家の活動時期、作風の変化とあわせて考察すると制作時期を推定する手がかりになり、ひいてはその作家の真作かどうかの判断材料にもなりうると思われる。研 究 者:早稲田大学大学院 文学研究科 博士後期課程  名 原 宏 明本研究では、アロンソ・カーノがグラナダ大聖堂の聖母マリアの彫刻と譜面台において、「無原罪の御宿り」の神学者な議論をどのように取り入れようとしていたのか、そして、その聖母像がグラナダ大聖堂においてどのような意義を持っていたのか、という二つの問題を解明することを目指す。加えて、本研究を通して、アロンソ・カーノの≪無原罪の御宿り≫の彫刻作品に関して、新たな解釈の可能性を提示することを目的とする。本研究の意義や価値、基本的な構想は、次の三つにまとめられる。まず、グラナダ大聖堂におけるアロンソ・カーノの≪無原罪の御宿り≫の彫刻に関して、譜面台や、大聖堂内部の他の絵画や彫刻、装飾との関係性から、「作品理解の新たな視点を確立する」ことである。カーノのこの彫刻に関しては既に多くの研究が行われており、新たな知見を示すことは難しいと言われている。しかし、従来の研究では、マリア像の形体の革新性に焦点が当てられることが多く、「無原罪の御宿り」の神学的な議論との関連性が指摘されることはあっても、彫刻が本来置かれていた譜面台や大聖堂空間の他の作品との結び付きについて、十分な考察は行われてこなかった。そのため、筆者は、この譜面台と大聖堂の他の作品に着目し、聖母像そのものの形体や様式のみならず、「無原罪の御宿り」の神学的な議論も踏まえ、カーノの彫刻を新たな視点から理解することを目指している。これにより、既に研究し尽くされたと言われるカーノの作品に、新たな解釈の余地を示すことができるのではないかと考えられる。次に、「彫刻における『無原罪の御宿り』の表現を見直す」ことである。17世紀の― 85 ―

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