鹿島美術研究様 年報第40号(2022)
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■ ■■■■■に■■る■■画■■■■関■美術■■■に■る■■画■■■■■及■スペインでは、「無原罪の御宿り」の信仰が熱狂的になり、絵画でも彫刻でも、この主題を扱った作品が数多く制作された。絵画における「無原罪の御宿り」の表現の発展に関しては既に多くの研究があるが、彫刻における表現に関する研究は簡単な様式論に留まっている。しかし、三次元の自立した丸彫り彫刻では、画面上に自由に要素を描き込んで様々な意味を持たせる絵画のような表現は難しく、作品の置かれていた場所とその周囲の装飾も含めて、全体で「無原罪の御宿り」の主題を表したと考えられる作例が少なくない。グラナダ大聖堂のアロンソ・カーノの聖母像も、カーノ自身の設計した譜面台の上のケースに置かれるために制作されており、彼は大聖堂において、七つの絵画から成る聖母伝も制作していた。そのため、本研究では、彫刻と譜面台、あるいは、彫刻と大聖堂という関係性に着目する。そして、このような全体的な視点は、カーノや他の彫刻家による「無原罪の御宿り」の作品を理解し、彫刻におけるこの主題の表現の変遷を見直すための糸口にもなり得る。最後に、「日本におけるアロンソ・カーノの研究に貢献する」ことである。バロック期のスペインを代表する芸術家であるカーノは、日本ではほとんど研究されてこなかった。しかし、画家、彫刻家、建築家として様々な作品を残し、グラナダ大聖堂の聖母像によって、「無原罪の御宿り」の表現に新たな規範をもたらすなど、彼の芸術家としての功績は、スペインをはじめ、欧米で認知されている。また、画家、彫刻家、建築家として活躍した彼の作品では、各芸術の要素が相互に作用し合っていると指摘されることも多い。筆者は、このようなカーノの芸術の特徴が確認できる代表的な作例として、グラナダ大聖堂の聖母像が挙げられると考えている。そのため、この彫刻を中心に研究することによって、カーノやその芸術の特徴を日本でもより効果的に広められると言えるのである。研 究 者:早稲田大学 非常勤講師  石 井 香 絵水彩画は大下藤次郎が明治34年に著した手引書『水彩画之栞』をはじめ、明治38年に創刊した水彩画の専門誌『みづゑ』、また大下らによる水彩画講習会の開催によって全国的に流行した。その結果水彩画は専業の画家のみならずアマチュア層に広ま― 86 ―

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