鹿島美術研究 年報第10号別冊(1993)
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⑰ J.-F.ミレーが画風形成期に影響を受けた作品の調査研究―トマ・アンリ美術館及びルーヴル美術館所蔵品を中心として研究者:山梨県立美術館学芸員鷹野吉章本調査研究において,ミレーが画風形成期(1846年以前)に実見したシェルブール・トマ・アンリ美術館及びルーヴル美術館の所蔵作品,とりわけミレーが模写した作品を中心に実見,調査した。また,その他シェルブール市古文書館,パリ国立図書館においても関係資料を調査収集した。以下,シェルブール市立トマ・アンリ美術館の所蔵品を中心にして調査結果を報告したい。1 トマ・アンリ美術館の所蔵品についてシェルブール市出身で絵画修復を営んでいたトマ・アンリ(ThomasHenry: 1766-1836)が,1831年から35年までに,同市に寄贈した163点の絵画をコレクションとして,1835年7月29日に設立されたのが,シェルブール市立トマ・アンリ美術館である。その所蔵品は16世紀から18世紀までのイタリア・オランダ・フランス各派の画家の作品により構成されていた。その後も同館は作品の寄贈を受け入れ,所蔵品を増やしていくが,中でも1915年のオノ家によるミレーの初期作品群の寄贈はそのコレクションをさらに一層特色づけるものとなった。2 ミレーが模写したトマ・アンリ美術館の所蔵品ミレーは,1833年にシェルブールの肖像画家ボン・ド・ムシェル(Bondu Monchel : 1807-1846)の下で絵画を学び始め,次いで1835年21歳の年にルスィアン=テオフィル・ラングロワ(Lucian-TheophileChevreville de Langlois : 1803-1846)に師事し,パリに出る1837年1月までこの地で画家としての修業を積む。この期間に,ミレーが目にすることができた絵画は,2人の画家の作品以外には,主にシェルブール市に新設された美術館のコレクションであった。ミレーは163点の絵画作品のうち,30点ほどを模写していることが,今日判明している。ミレーがトマ・アンリ美術館で模写した原作品について,リュシアン・ルポワトヴ(1) ミレーの模写した原画について-112-

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