註1:LucienLepoittevin,"J.-F.Millet", Tome II, LeonceLaget, 1971, pp.22 変更している。また,原作においては風景の中に小さく人物群が配されているのに対して,ミレーの作品では,画面上で2人の人物が大きく扱われ,背景の風景描写も省略的に描かれる。要するに,ミレーは,原作品中の人物を借用し拡大し,背景の空間を作り替え,細部を省略し,構成し直し,当然ながら,その過程で,主題というかテクストを別のものに置換しているのである。紺「ダフニスとクロエ」に関する考察この「ダフニスとクロエ」は,画家の制作上の秘密に属する手法を露呈していると言える。というのは,この作品の構図はまさに,1850年代のミレーの特徴的な画面構成,すなわち1人ないし2人の人物を近接した視点で把え,画面の中で大きく描き出す構図を想起させ,ほぼ同様な構造を持っているからである。ミレーが何らかの作品を下敷にしたこうした作画手法を画風形成期において採用していることは注目に値する。それは,その後の彼の作品制作にも反映していると考えられ,ミレー作品を検討する際の有効な手がかりになり得るし,また,この手法こそ,ミレーのオリジナリティーを解く重要な鍵となるものである。例えば,1850年のサロン出品作「種をまく人」の,ランブール兄弟による「ベリー公の豪華時蒻書」の11月の図中に見られる種をまく人からの影響関係が指摘されているが,上記の作画手法の適用の可能性は否めず,その主張を補強する根拠のひとつとなり得よう。最後に今回の調査を振り返るならば,上記の通り,ミレーの画風形成期に関する研究の重要性を再確認することができた。しかしながら,ルーヴル美術館における調査については,同館デッサン室に所蔵されるミレーの全素描作品286点を精力的に調査し,資料収集するなどしたが,時間的な制約もあり,その全貌を報告し考察を加えるには,調査は十分とは言い難い。今後の追加調査の余地を多分に残したと言える。また,今回の調査によって得られた各種の資料・情報は,上記の他にも,絵画におけるミレーの嗜好など,様々な角度から検討を加える必要があり,また,そのためには,さらに調査研究を継続していく必要がある。-23, note 21(以下L.L.と略記)3 その他の調査結果及び今後の課題-115-
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