得るほど豊かになっていた。彼らはまた当時の新しい知的武器である文字を使いこなすことができる一種の知識人でもあった。こうしたアッティカ陶器の伸張期はまた,種々の詩の流行に触発されて物語表現も発展を遂げつつある時期に当っていた。新しい主題と取り組むとき,陶画家たちは大絵画の手本を借りずとも独自の腕をふるうことができたのではないだろうか。アッティカ陶器画全体の流れの中においてみたとき,紀元前6世紀前半のソフィロスの表現とクレイティアスの表現は陶器画による物語表現の新機軸ととらえた方がよいように思える。「フランソワの甕」はいうまでもなく,ソフィロスによる大英博物館のディノスも支え台を含めて71cmの高さに達し,モニュメンタル性を誇っており,両陶画家ともこの主題に力を注いだことがうかがわれる。以上のようにみてくると,「神々の行列」がソフィロスの独創になり,クレイティアスはそれを手本にしながらも他に追随を許さない見事なミニアチュール・スタイルで練り直したという考え方に落ち着くであろう。しかしJ.D.ビーズレによって確立されたアッティカ黒像式陶器のクロノロジ一注(3)に対して新たに問い直そうとする近年の研究動向を考慮に入れると,今少し結論は保留にして,ソフィロスとクレイティアスの画歴,さらにはその周辺の陶画家たちの活動をも詳しく分析し直した上で論文をまとめたいと思っている。注(1)トキワ松学園女子短期大学紀要第10号,1991年(2) F. Brommer, V asenlisten zur griechischen Heldensage, Marburg, 1973 pp.318-329 (3) J. D. Beazley, The development of Attic Black-Figure, London, 1951 ; Attic Black-Figure Vase-Painters, Oxford, 1956 -126-
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