鹿島美術研究 年報第10号別冊(1993)
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⑳ パルミラ彫刻における風俗的諸要素の研究研究者:財団法人古代オリエント博物館研究員宮下佐江子モール)においてTheInternational Colloquium on "Palmyra and the Silk Road" が開催された。私は幸甚にも鹿島美術財団の「美術に関する国際交流の援助」の助成を受けて,この会議に参加することができた。パルミラでの初めての本格的研究会議ということで,これまでパルミラで発掘をおこなってきたポーランド,フランス,ドイツ,スイスの各国研究者を始めとして,シリアの主な考古学者,ヨルダン,レバノンなど近隣諸国の学者など200名を越える参加者があった。遺跡の西北に位置するシャム・パレスホテルで毎日午前8時30分から昼の休憩を挟んで午後8時までそれぞれの研究者によるパルミラの旧石器時代から3世紀の滅亡にいたるまでのこれまでの成果について発表があった。日本人では東京大学の赤沢威助教授の旧石器時代の古環境について,奈良大学の泉拓良助教授によるジオレーダーと人工衛星を使ったハイテク考古学の紹介がなされた。なお,パルミラ博物館では,この会議のための特別展として,ドイツ・ポーランド合同隊によるパルミラ36号墓から最近出土した織物を中心とする,これまでのパルミラ出土の織物に関する展示があり,50年以上前にR.P.Fisterにより出版された“Tex-た。パルミラでは膨大な量の織物が出土しており,その中には漢代の絹織物も含まれ,これまでに知られている最西端の漢の絹織物の例として名高いものであるが,その分析に関しては1930年代の方法論によった評価のままにされていた。この点に関しては日本における古代織物の研究者にとっても残念なことであったが,最近の出土品を含めて織物について新たな観点から科学的機器を用いて織物の組織,繊維,染料などについてもう一度再検討する動きがでてきたことは大変喜ばしいことである。今回の研究発表は最近の各国の発掘成果に基づいたものが多く,パルミラの成立と発展について不明な部分が次第に構築されていくような醍醐味を味わうことができたか,それと同時に現在のパルミラ研究の空白部分も明らかになり,この古代都市の研究に遅れて参加した日本人ではあるが,欧米の研究者にも充分伍していける領域もい1992年4月7日から11日まで,シリア・アラブ共和国の古代都市パルミラ(現タドtiles de Palmyre"の評価の見直しと新たな分析方法による研究の成果が示されてい-127-

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