智院本•特第14箱ー18号〔建武二年(1335)書写〕十帖を底本とし,後者はこれとは(2) 『八家秘録(諸阿闇梨真言密教部類惣録)』〔第78箱ー1号〕一帖(「保延三年六新史料の探索をおこなうことも重要な基本作業のひとつとみなされる。そこで本研究課題と深く係わる基本史料として今回,東寺観智院金剛蔵聖教類のなかから以下のものを選び出して調査を行うとともに,そのマイクロ撮影による紙焼き化をおこなった。1.『諸説不同記(大悲胎蔵普通大漫荼羅中諸腺種子標織形相聖位諸説不同記)』・完本〔特第14箱ー18号〕十帖・零本〔第40箱ー7号〕・零本〔第179箱ー16号〕『諸説不同記』は法三宮真寂(886-927)の撰になり,「現図系胎蔵界曼荼羅」の個々の尊像の図様の特徴を「現図」,「山図」,「或図」を対比させながら詳述するものであるか,本書は単に胎蔵界曼荼羅の研究に留まらず,彫像の図像学的考察を行う場合においても必携の書であるとの認識はいうまでもない。現在,本書の活字本としては『大正新脩大蔵経』図像篇と『大日本仏教全書』に収録される二件があり,前者は東寺観別系統のもの(第179箱ー16号の零本一帖はこの系統に属するか)を底本とする。ところで既に指摘をみるように『大正新脩大蔵経』本とその底本となった東寺観智院本とを比較検討するとき,活字本にはかなりの誤脱・術字が存在しており,その影響は直接図像の解釈にまで及んでいるため,改めて底本そのものによって活字本の誤脱箇所等の確認が必要と考えられる。今回の調査では,その底本となった建武本とともに零本ではあるがそれより古い写本とみられる第40箱ー7号の五帖(鎌倉時代に遡る)と第179箱ー16号の一帖(江戸時代の写本であるが文永年間の写本を用いて対校がなされる旨を奥書に記す)の調査を行い,この3件16帖をマイクロ紙焼き化することで,活字本ならびにその底本となった建武本そのものの対校が可能となった。月五日於中乗房書寓畢」の奥書をもつ)本書は安然の編纂にかかるもので,元慶九年(885)の年記をもつ初稿本がなって以降,改元後の仁和元年(885)の再稿本,さらには延喜二年(902)の三訂本の三つの系統が存在しており,活字本(『大正新脩大蔵経』本,『大日本仏教全書』本)はその三言I本系の江戸期の版本を底本とするとみられる。一方,この写本は保延三年(1137)の奥書を有するもので仁和元年の再稿本系と考えられるが,活字本と比較するとき,随所に異同が認められるとともに,とくに請来者ほかの細かい注記に活字本の誤脱と五帖一帖-141-
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