鹿島美術研究 年報第10号別冊(1993)
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3.研究成果2一介石の作画態度4.研究成果3一介石の山水画の特徴以下に述べるような作画態度に対する介石の理想論の根底には,大雅を南画の始祖とする態度の反映が見られる。『介石画話』には明確な筋道や結論は求められないが,介石が常にどういう姿勢で作画に臨もうとしていたかが伺える部分が幾つか指摘できる。それによれば,介石は山水を描くのには“画山水”すなわち粉本ではなく“真山水”すなわち自然を手本とすべきであること,そのためにも深山幽谷を究めることが重要であり,それが南宗画の極意であると言っている。以下がその抜粋である。“真山水を粉本として,鵞山水を手本とせず。豊をかくことをせずして,山水を豊く事を肝要とす”竺公人の圏に依者は生涯山水を得意とせず”四.“南宗の極意は人の為にせず,已が楽とす。固より潤筆を求めず。山水を楽めば深山幽谷を見る心となりて,臥遊の楽み是に及ぶもの無し(中略)是れ南宗家の第ーとすべき所也”これら一連の“真山水論”は,介石が公務の合間にまたはそれを兼ねて登山旅行を何度か行っていること叫こも裏付けられるが,それはまた,彼が文人画の“万巻の書を読み万里の道を行く”という精神を理解していた以上に,師大雅が大小の旅行を数多く試み富士山始め日本の高山を究めたことを,門下であった時代に学んだ影響とも考えられる。更にこうした姿勢は,自国和歌山の景勝(熊野の自然,特に那智の瀧)を主題とした山水画を多く制作していたこととも呼応する。そこで,今回調査し得た作品及び未見分写真資料により,介石の“真山水論”が実作にどのように影響しているかにつき考察した結果(その途中経過,見通し)を以下に報告したい。介石の山水画には,概ね以下のような特徴が指摘できる。①構図では,近景・中景・遠景が常に意識されており,特に中景には湖などの水面が酉己され,その向こう側に主山が描かれている場合が多い。但し現存作品の傾向から― “(竹洞来りて粉本を乞ふ,我答て云)粉本無し,胸中に真山水を貯て,聾山水を― “真山水を観ずんば璽山水を得意とする事能はず”-145-

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