鹿島美術研究 年報第10号別冊(1993)
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なりかた3.特色がある。記録には,沿革,建物及設備,規程,開館後3年間の観覧人貝と,和漢の絵画だけでなく武具,古器物,茶道具,工芸品などの陳列品目録が記されている。絵ハガキになった久隅守景筆「耕作図屏風」はじめ,雪舟,探幽,薦雪などの日本画24点,定家筆「小倉色紙」はじめ大燈国師,澤庵和尚などの墨跡9点も主要な作品である。しかし戦前の国華に58点も「浅野侯爵蔵」として研究者に取り挙げられ紹介解説されているのは,旧浅野家コレクションがいかに質量とも優れていたかを物語っている。これらの基礎資料をはじめ,大正5年の華族世襲財産法による世襲財産登録や売立記録(棒目録)などを整理すると,旧浅野家コレクションの絵画は三百数十点あり,現在作者・作品名と図柄がわかるものはそのうち約150点,さらに所蔵先がわかるものは約90点である。(国宝・重文・重美の作品のみ末尾に記す)さてここ1年ほどの間に所蔵先不明の作品を尋ねる一方,約50点の作品を調査した。その間印象深かったのは,旧浅野家コレクションの一つの決め手となる附属品である。紫練絹の包み布,上等の桐の二重箱,各々を包む美しい更紗の畳が標準的作品の附属品に見られる。外箱が黒漆塗の場合もあるが,印籠蓋造りの蓋が身にすーと下りる見事な細工,舶来や和ものの色とりどりの更紗の畳に大名の数奇の如何なるものであったかを窺うことができる。これらの桐箱には,例えば顔輝筆「雲房度呂純陽図」(MOA蔵)などには「惟信誌垣]」(養川院)の箱書があり,馬麟箪「梅花小禽図」(五島美術館蔵)などには「榮信誌匪]」(伊川院)の箱書があることから,文化から弘化の頃,歴代藩主で言えば9代重晟から10代斉賢の頃に揃えられたと推測される。また,何代の頃新調されたかはっきりしないが,雅味を帯びた表装にある共通の好みを窺うことができる。ところで,作品の特色に関して言えば,大名道具というトータルで考えられねばならない。当然250年の長きにわたる間のお家の事情や藩主の好みの変遷なども考えられ,ーロに言い難い。しかしそれでもなお本研究を進める中で,旧浅野家コレクションの絵画の特色のようなものを感じることができる。例えば雪舟の作品は大名家必携の作品であるが,雪舟のどんな作品を所持していたかはその家の鑑識眼や好みの傾向を窺わせるのではなかろうか。旧浅野家コレクショ-151-

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