鹿島美術研究 年報第10号別冊(1993)
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⑮ 亜欧堂田善の作品に関する研究研究者:府中市美術館準備室学芸員金子信久亜欧堂田善については,舶載原画との関係をはじめ,さまざまな角度から研究されてきた。だが事跡に関する確かな資料が少なく,洋風画に制作年のわかるものがほとんどないなど,特に作品の編年的分析は難しい問題として残されている。研究者によって真作ととる作例も異なり,画風の幅さえ判然としない。一方,かつての論文や展観目録によれば,出身地である福島県須賀川地方には多数の作品が伝来していたらしい。なかには年紀をもつ日本画や,現在は数少ない洋風画などもみえる。研究の一層の進展には,これらの作品の探索も含めた資料の集成が必要と考える。本研究の主な目的は,須賀川地方を中心とした資料の掘り起こしと,現段階での資料の集成であった。具体的には次の方法によった。1 かつての文献,展覧会等に取りあげられたもの,既調査作品など,現在知り得る全作品をリスト化する。3 1, 2を通じて気づいた点の個別的研究は並行して進める。以下,この順にしたがって報告する。1 全資料のリスト化と調査まず資料のリストアップであるが,近年では,昭和55年に三件の大規模な田善の展覧会が開催され(福島県文化センター,須賀川市立博物館,町田市立博物館),また平成元年にも福島県立博物館で[亜欧堂田善とその系譜」展が開かれるなど,相当数の作品が明らかになっている。そうした成果に依り,さらに明治・大正から昭和初期の諸文献に紹介されたもの,既調査で明らかなものを加えた。次に,作成したリストをもとに,未見資料を中心とした調査を試みた。今年度で全体を把握するには至らなかったものの,数点の所在不明資料を確認でき,また新出の油彩画,銅版画を知るなどの成果を得た。ここでは2点の新出資料を報告する。須賀川市・個人蔵。絵具か褐色に変色し,剥落も数箇所ある。手前に海,これを隔てた山々の背後に富士山が描かれた図様で,画面右上に「みちのくすかかは」の朱文2 1のリストをもとに,所在不明作品の追跡を含めた悉皆調査を行なう。(1) 富土遠望図(図1)絹本油彩一面33.8 X 72. 4 (cm) -154-

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