しての意味は持っていない(少なくとも稀薄である)。たとえば北魏第254窟のサッタ太子本生図に見られる,登場人物の背景を充填するように,太く力強い描線によって複雑な稜線を描く表現である。2.景の区画としての山岳表現の段階。巻き物を開くように展開するフリーズの上下を,あるいは各景を梯形・長方形・楕円形などの変化のある形状に区画する。山そのものの表現技法は単調である。北魏第257窟の九色鹿本生図,北周第428窟のサッタ太子,スダーナ太子本生図がその例である。発展する。第301(北周末隋初),302(584年)窟などの本生図に代表されるもので,樹木の表現と相侯ってやわらかな山肌が特徴的である。4.山岳が説話などの物語全体を統括する舞台となる段階。遠景・中景・近景のそれぞれで表現技法をかえるなど,絵画としての山岳表現が確立した時期でもある。第419窟(隋)のサッタ太子本生図では山岳景としては描かれる場面は少なくなっているが,効果的に扱われている。図の主軸として扱われながら,雄大な山岳景として発展する。以上のような第1から第4段階への展開から,構図としての大画面構成は隋代に発生したが,それに相呼応する山岳表現は,細部では多様に認められるものの,山そのものが大きな景観となるのは初唐期に入ってからであることが確認できた。変相図も説法図を中心とした説話表現であるから,5つめの段階として求心的に統一された舞台設定の段階としてとらえることができよう。今回の研究では以上のような説話表現の構図の分析だけではなく,山岳表現を持つ壁画の主題,窟内での所在,およびその構図,表現手法などの細部を文字データベース化することにし,一方では窟の平面図,壁画の所在図,および説話図描き起こし図(できれば写真図版からも)などから,1.壁画主題のグラフィックデータベース化2.描かれた人物・情景などのいわばパーツのグラフィックデータベース化を試みることに力点を置いた。それは,山岳を主体とした画面の描き起こし図を作成してデータベースの基礎資料とし,画像処理を行うことによって山岳表現の構図法,モチーフの比較検討を容易にするだけでなく,樹木・動物・人物表現との関連から様式分類をおこないやすくし,3.区画として機能しながら,一方で山岳として表現される段階。山の表出技法も5.これとは別に隋代に入ると,維摩経などの変相図のなかで山岳表現が大きく構-159-
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