⑲ 白描物語小絵の基礎的調査研究研究者:立正大学國士舘大学共立女子短期大学非常勤講師本研究の目的は,室町時代の大和絵絵巻研究の一環として,従来看過されがちであった小品の白描絵巻の募礎的研究を通し,時代の趣向の一端を探ることである。今回は,白描絵の凋落期とみなされていた室町期において,その主流を占めたと思われる物語を主題とした白描小絵に焦点を絞り(基本的に縦20センチ以上のものは対象から除外した),その基礎的資料収拾と調査を計画した。所在不明の作品や海外に流出したものも多く,現在調査研究を続行中であるが,現時点で基礎資料をえたものは実見しないものを含めて25点となる(表1参照)。そこで以下,それらのデータから抽出された室町白描小絵の特色と傾向に関し,若干の考察と今後に向けての問題提起を行い,中間報告としたい。内容主題内容には大きく分けて三通りの傾向がみられる。1 「源氏物語」「平家物語」など平安鎌倉時代以来の古典的物語を主題とするもの。周知の如くこうした画題は室町期ばかりでなく桃山江戸時代へと継承されていく。2 「源氏物語歌合」「手大納言絵巻」など,王朝文学に対する憧憬や古典的教養をベースにしながら,そのバリエーションとして,鎌倉時代から盛んとなった歌仙絵,歌合絵の影響を受け和歌を中心として編集されたもの。3 いわゆるお伽草子と通称される室町時代に流行した短篇の平易な物語。同主題は広く彩色絵巻や冊子形式によって絵画化されており,題材も多岐にわたっているが,白描小絵の場合は神仏の霊験と恋愛,出家遁世を結合したものが多い。主人公はそのほとんどが姫君と貴公子で,夢告が重要なファクターとなるなど,その内容にはロマンチックで貴族趣味的な傾向,あるいは王朝生活への憧憬と懐古的気分といったものが認められる。こうした主題選択には,源氏物語の採用とともに,鎌倉時代以来の物語絵に見られる女性的な嗜好の伝統が感じられる。なお標準サイズの白描絵巻には,他に「善教房絵巻」や「放屁合戦絵巻」など遁世物や滑稽諏もとりあげられているが,小型の現存作品に見るかぎり恋愛諏が圧倒的に多く,英雄諏や本地物怪異諏などはみいだせない。佐伯英里子-173-
元のページ ../index.html#180