以下具体的にその内容を略述しておこう。中宮物語平家公達草紙平家公達の優雅な貴族的生活を懐古的に語る新蔵人物語転寝草紙遊女物語稚児今参り御物琴腹絵桜梅草紙画面の特徴1 画面構成「源氏物語」や「平家物語」など古典的主題の場合は,大別して二つの傾向がみられる。一つは基本的に伝統的構成を踏襲していこうとするもので,吹抜屋台の建物のなかに比較的人物を小さく描き,室内調度や室外の自然景も省略せず詳細に描かれる。その中には石山寺本と五巻本のように,ほとんど同構図を示すところから共通の祖本をもとに制作されたことが推察されるものもある。もう一方は,ニューヨーク公共図書館本のように,画面に人物名や詞が書き込まれたり,人物と草木や建築物との大小関係も無視されるなど伝統的構図法にとらわれない自由な構成をとるものである。こうした構成は,後述するお伽草子系の作品と類似する点で興味深い。次に「源氏物語歌合」を主題とする場合は,画面に二人物が対置され,簡素な几帳などをわずかに配し,周囲に詞や歌を散らし書きする構成がとられる(国華756号紹介作品のように歌を画面内に書き込まないものもあるが,描写も精緻で古格を保っておりむしろ伝統的な源氏物語絵の系譜に連なるものと解せよう)。こうした構図は,顕らかに鎌倉時代から流行し始めた歌仙絵や歌合絵の影響を受けたものと推察される。このように画面に詞や和歌が混入してくる白描物語小絵の先駆的作例としては,南北朝期の作と推定される「手大納言絵巻」があげられる。「中宮物語」「遊女物語」などいわゆるお伽草子系の作品では,歌合とは別系でこの傾向を更に推し進め,絵と文字とがほぼ同じウエイトをもって同一画面に併存する構成をとっている。その中には吹抜屋台や几帳,蔀,御簾といった環境描写を整然と詳細に描くものもあるが,概して背景は簡略化され,人物とわずかの室内調度によって春日杜参詣中に出会った姫君と貴公子の恋愛讀貴族の娘の出家遁世諏石山寺観音の霊験を絡ませた姫君と貴公子の恋愛諜貴公子と遊女との悲恋とその子孫の繁栄比叡山の稚児と姫君の恋愛諜和泉式部に関する恋愛謂(未見)桜と梅の精の一人の男を巡る恋愛謂(現在所在不明)_174-
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