鹿島美術研究 年報第10号別冊(1993)
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更に文献上にも,天福元年(1233)墨絵の更級日記を隆信の娘右京大夫尼が描いたという記載が『明月記』にあることはよく知られるところである。そして今回の調査を通し,主題選択に見られるロマンチックな傾向,景観描写が少なく簡略化された構成や愛くるしい面貌表現,極めて個人的な享受環境が想定できること等を勘案すると,女性筆者との伝承もあながち無視しえないものがあるように思われる。更に女性的感性との関連において,工芸的意匠化の傾向が見られることは示唆的のように考える。今後はそうした観点から現存作品の追跡調査や詳細な画面分析と平行して,文献上からもより具体的な制作享受環境の実態解明に努力してゆきたい。-177-

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