た墨書銘を欠くものも多く,今回判定し得なかったものもある。〈藤代大悲心王童子〉着衣の童子形にあらわすもの(①③⑥⑨⑩⑫⑮⑮⑲)と背中をみせる童女形にあらわすもの(⑭)がある。持物に関しては,団扇を両手でもつもの(①⑥⑨⑩⑫⑭),右手にもつもの(⑪⑮⑯),左手にもつもの(⑲)があり,その他に両手を合わせるが,持物は不明というもの(③)もある。童子形で団扇をもつというのが一般的な形であると考えられる。く切目金剛童子〉上半身裸の童子が棒を地面に立て,上体を支え,左脚だけで立っている(③⑨⑩⑪⑫⑬⑭⑮⑯⑰⑲⑳)。体を棒で支える際に,両手をともに棒の上端にのせる場合と,右手を棒の上端にのせ,左手を棒の半ばにそえる場合とがあるが,基本的にはほぼ同じ姿に表されている。<稲葉根稲荷大明神〉浄衣を着た老人が,稲束をふりわけにした棒を肩にかついでいる(①②③⑥⑨⑩⑪⑫⑬⑭⑮⑯⑰⑲)。右手に鎌をもった例(⑪⑭⑮⑲)もみられ,また彼の前に白犬が表された例(③)もある。この王子も又,決った姿に表される例である。<滝尻金剛童子〉一例だけ着甲の童子(③)に表されるが,他はみな上半身裸の童子の姿(①②⑨⑩⑪⑫⑬⑮⑯⑰⑲)に表される。持物に関しては,一般に右手には宝剣をもつ例(①②③⑨⑩⑪⑫⑬⑮⑯⑰)が多いが,一例だけ腹前で拳をつくっているもの(⑲)がある。高くかかげた左手(①②③⑨⑩⑪⑫⑬⑮⑯⑲)には,光背を負った小坐仏(③⑪⑫⑯),小さな台座(①⑬),宝珠(⑨⑰),宝塔(⑲)などをもっている。一般的には上半身裸の童子が,右手を腰にあてて剣を執り,左手で何かを高くかかげる姿であるといえよう。〈近津湯金剛童子〉一例だけ着甲姿の童子(⑳)に表されるが,その他は皆,着衣の童子(③⑨⑩⑪⑫⑬⑮⑯⑰)に表される。ただその場合にも彼は腔まで覆った長い沓をはいており,着甲像的な意味あいがあったのかもしれない。これは後述する発心門金剛童子の場合にもみられることである。持物に関しては,右手に独鈷杵をもつ例(③)と三鈷杵をもつ例(⑨⑩⑪⑫⑬⑮⑮⑳)とがあり,左手には羅索をもつ例(⑮⑯)と水瓶らしきも-204-
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