鹿島美術研究 年報第10号別冊(1993)
212/279

のをもつ例(⑫)のほかに,拳をつくった例(③⑬⑳)もみられる。また両手とも腹前で拳をつくり,持物については不明という例もある。一般には,着衣の童子が,両肘を張って身構え,右手に金剛杵を執るというのが基本形であると思われる。く石上新羅大明神〉俗形の老人相の人物が,頭巾もしくは帽子状のものを被り(①③⑨⑩⑪⑫⑬⑭⑮⑯⑰⑲⑳),虎皮の敷物の上に坐り(①⑪⑮⑯),右手又は両手で団扇(①⑨⑩⑪⑫⑬⑮⑯⑰⑳)をもっている。例外として,右手に払子,左手に錫杖をもった姿のもの(⑭)がみられる。<湯河金剛童子〉上半身裸の童子が(③⑨⑩⑪⑫⑬⑮⑯⑲⑳),右手に棒(③⑪⑮⑯⑳)か,あるいは剣(⑨⑩⑫⑬)をもち,左手を頭上に高くかかげるという例(③⑨⑪⑫⑬⑮⑯⑳)が多い。他に右手を高くかかげ,左手に金剛杵らしきものをもつ例(⑲)がある。く発心門金剛童子〉着衣姿の童子(③⑨⑩⑪⑫⑬⑭⑮⑯⑰⑲⑳)が,右手で宝棒をまっ直ぐに立てている場合(③⑨⑩⑪⑫⑮⑯⑰)が一般的であるが,ほかに右手に剣をもつ例(⑬⑭⑳)と右手を胸前にあげる例(⑲)がある。また左手は腰にあてている例(③⑨⑩⑪⑫⑬⑮⑯⑰⑲⑳)が多いが,単に垂下させている例(⑭)もある。<湯峯金剛童子〉一部に上半身裸の童子に表された例(③⑩)もあるが,一般には着衣の童子が(⑨⑪⑫⑬⑮⑯⑰⑲),両手で宝珠を捧げる姿(⑪⑬⑮⑯⑰⑲)に表される。宝珠が火焔を発している場合(⑨)や,宝珠ではなく,ただ単に器状のものである場合(③⑩⑫)もある。以上,各王子の図像をみてきた。現存する作例では,像のわきに添えられた墨書に錯誤があるとはいえ,王子を表すのに基本的には同じ形を継承してきたことが知られる。ただ先にあげた仁和寺蔵の『熊野縁起』に記された各尊の形像とは必ずしも一致するものではなく,絵は絵としての伝承が別にあったと想像される。ところで,熊野曼荼羅図では,十二権現を表すのに本地仏を用いる例が多いのに対して,王子の表現はいつも童子形等を用いるのは何故だろう。熊野の王子は,熊野三山の若宮,すなわち御子神を祀ったものである。王子,あるいは皇子と書いて,それをミコと読ませる例があり,王子を垂迩画に表すに際して,それを童子の形に描くの-205-

元のページ  ../index.html#212

このブックを見る