鹿島美術研究 年報第10号別冊(1993)
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図lファン・グリス<果物入れ>1918年3月,油彩・キャンヴァス,92X65cm(C255) Section", Art Bulletin, March 1965, pp.128-134)が,ここではさらに内的調整の進にも極めて興味深い作例である。縦長構図が大半を占めるグリスの静物は,通常は水平に用いられる風景画フォーマットのP型を垂直に用いたものが少なくないが,30Pのキャンヴァスを用いた本作の構図を分析すると(図2),次のことがわかる。第1に,グリスは作画に当って画面を上下左右に二等分したあと,さらにEFで画面を上下に黄金分割し,EFを直径とする半円に内接する二つの正方形を設定して,その一辺を三等分した長さaをモデュールとするグリッドシステムを築いている。初期作品の<洗面台>(1912)や<時計>(同)について,かつてカムフィールドが指摘した黄金分割とグリッド・システムの共存(cf.W.A.Camfield, "Juan Gris and the Golden んだ形式で見られるのである。第2に,ここでは画面全体の幾何学的システムが個々の対象に決定的に先行している。果物入れは正方形MNOPのグリッドの交点をつなぐ線と,aを直径とする半円によって規定されているが,同じことは,新聞やパイプ,グラス,テーブル,壁の装飾モチーフについても指摘できる。対象が先にあって構造に嵌めこまれるのではなく,統一的構造から多様な対象が現出してくる。これが「始図2グリスく果物入れ>解析図(作図:筆者)-225-

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