鹿島美術研究 年報第10号別冊(1993)
235/279

⑱ ファン・ファン・デル・アーメンの静物画の研究研究者:東北学院大学助教授研究担当者は,当該研究課題の基礎作業として,ファン・デル・アーメンに関する過去の美術文献のうち,①アントニオ・パロミーノ(1724年),J.A.アルバレス・イ・バエナ(1789-91年),セアン・ベルムーデス(1800年)によるファン・デル・アーメンに関する伝記記録,②さらにまた,画家の同時代人フランシスコ・パチェーコの『絵画術』(1649年),文人ホセ・デ・バルディビエルソ,ロペ・デ・ベーガが画家に捧げた頌詩,ファン・ペレス・デ・モンタルバン『マドリードのオ人目録』(1633年),③1631年のファン・デル・アーメンの死後作成された,アトリエ内の絵画収蔵日録の検討を進めた。その上で,平成5年3月下旬より4月上旬にかけ約3週間の在外研修を行ない,国内において入手困難な文献の収集,および作品調査を行なった。現在ファン・デル・アーメンの静物画の総作品カタログとしては,1968年のw.ジョーダンの博士論文所収のカタログと,J.R.トリアドによる試論(1975年)の2点があり,今回の作品調査はこれまでに引き続き,両者において「真作」としてリスト・アップされている作品群を中心として行なった。帰国後,日の浅い現在,今回の海外調査の整理と分析は,いまだ過程状態にある。従ってここでは,・調査を総体的な見地から振り返っての知見を総括し,個別作品に関する分析結果は後日の報告に譲ることとする。(I) 1968年のw.ジョーダンによる作品カタログは,美術市場に流布する膨大な帰属作品を度外視し,主として作品署名と来歴を手掛かりに帰属を確定しようとする試みであり,その信憑性は概して高いと判断されていた。しかし今回の作品調査の結果,ティッセン・ボルネミスツァ・コレクション所蔵の作例(W.ジョーダン,カタログ番号No.17)のように,ファン・デル・アーメンの典型的なモティーフを含むものの,構図,色彩,光,筆触等,様式批判の観点からするなら,基準作と相当乖離した作品を含んでおり,無批判には受け入れ難いことが明らかとなった。(II) 1968年以降の,近年再発見され,改めて帰属が提唱されている作品数は,かなりの数にのぼる。それらに関しては,1983年,プラド美術館において開催された展覧会カタログ(ペレス・サンチェス)ー一ここには1975年のT.R.トリアドによるカタログ,および研究成果が部分的に吸収されている一ーさらに1985年のアメリカにおける森美智子-228-

元のページ  ../index.html#235

このブックを見る