鹿島美術研究 年報第10号別冊(1993)
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(2) 小玉貞晨「蝦夷国魚場風俗図巻」(妻沼コレクション蔵)近似している。しかし原本と写本の関係で多々みられることではあるが,やはり,貞良の筆のほうが躍動感があり,貞晨の描写はおとなしくまとめられているという印象は否めない。例えば,児玉マリ氏蔵の「蝦夷風俗画巻」にみられるシュト打ちの場面と比較すると,貞良のシュト棒を持つ男の耳飾りについている布の動きは,軽く風に揺れる様をよくとらえているが,貞晨の作品ではそうした動きは感じられない。巻子。紙本着色。巻末に「松前産小玉貞良筆同貞晨写之」と落款があり,印章は,白文方印(貞),朱文方印(小玉氏),朱文方印(貞晨)とある。縦27.0X横891.0。内容は,アイヌの鮭漁の様子を描いたものであるが,巻頭から,アイヌを使役する和人が登場している。腰を屈めるアイヌとその手をとる和人の男。家屋には,脇差しをさした和人の姿が描かれている。雇主の近江商人であろう。背後に朱の布で包み置かれているのは,鉄砲であろうか。アイヌの長老や,女,子どもの周りには,酒樽や米俵が積み置かれている。さらに画巻は,舟から海産物等を荷揚げするアイヌの男,船上から水面に投石して浮上する魚を網で捕える場面へと移行する。そして網をひいて鮭を水揚げする男たち,鮭の腹をさくアイヌの女,取り出された魚卵を塩漬けする和人の男,荒巻鮭を舟に積み込むアイヌ。巻末は沖に出て,北前船に荒巻鮭を積み替小玉貞晨「シュト打ちの図」(個人蔵)-237-

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