鹿島美術研究 年報第10号別冊(1993)
245/279

、7入ノヽヽ/ \ y える場面へと展開し,北前船には,帳簿をつける和人の姿もみえる。これまで貞良の蝦夷風俗画巻は,熊祭を中心としたアイヌの生活風俗を描いたものであったが,こうした鮭漁のみを描いた蝦夷風俗画巻を貞良が手がけていたことは,興味深い。特にアイヌと近江商人,それをみつめる貞良の視線,そして,貞良と近江商人の関係も浮かんでくる。おそらく,この画巻も,「松前・江差屏風」と同じく,近江商人の依頼で描かれたものであろう。近江商人によって本州各地に売りさばかれる鮭が,はるか蝦夷地でアイヌの手によって採られたものであるという様が,実に説明的に展開されている。さて,貞晨の筆致であるが,先に紹介した「シュト打ちの図」同様,やはり,貞良に比べて全体的に筆が落ちる。特に,アイヌの方が描きなれているのか,和人の描写はぎこちない面が見られる。また,巻末に近い場面では,アイヌの丸木船の描写が簡略化されており,これは貞晨が,他にも原本を省略している部分があることを想像させる。小玉貞晨「蝦夷国魚場風俗図巻」(妻沼コレクション蔵)ノ入-238-` ツ

元のページ  ../index.html#245

このブックを見る