しかし,他の貞良系の写本と比べても,貞晨は貞良の作風を極めてよく伝えているといわなければならない。永田富智氏は,これまで貞良といわれてきたものの中には,貞晨筆の可能性があると示唆されているが,おそらくここで永田氏がその可能性のある作品として想定しているのは,市立函館図書館蔵の「蝦夷国風図絵」であろう。この「蝦夷国風図絵」は,無落款ながらこれまで貞良作とされてきたものであるが,貞良落款の画巻と比較すると,その筆致の違いは明らかで,貞良の写本のひとつと思われる。しかし,貞晨の作品と比べても貞晨とは別の手によるものとみなされる。「蝦夷国風図絵」は,やはり貞良周辺以外の絵師による写本と考えられよう。前述したように,貞良落款の作品にそれぞれ筆致に差異があり,全てを落款のまま貞良筆とすることに対してぱ慎重にならざるをえないが,貞良と極めて近い位置にいたであろう貞晨をはじめとして,貞良周辺の作品が明かになるにつれ,貞良の輪郭そのものも浮かび上がってくると考えられる。今後の新資料の発見が待たれるところである。(註1)宮下正司「北前船と江差」(北前船一日本海文化と江差展図録)(註2)永田富智氏は,松前町史通説編第1巻上で,貞良の生年について「日本画家銘鑑」に「天和2年,松前に生まれる」との記述があるとしている。(註3)拙稿「松前に生きた風俗絵師ー小玉貞良について」(紀要1990北海道立近代美術館他)(註4)拙稿「小玉貞良『蝦夷風俗画巻』について」(紀要1991北海道立近代美術館他)(註5)松前町史通説編第1巻下-239-
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