鹿島美術研究 年報第10号別冊(1993)
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⑫ プルゴーニュ地方の初期ロマネスク扉口装飾研究者:早稲田大学大学院後期博士課程常國マヤオータン大聖堂西扉口とヴェズレー,ラ・マドレーヌ修道院付属聖堂ナルテックス扉口の二作例に代表されるブルゴーニュ地方の聖堂装飾は,洗練された様式と複合的な構成を示すものとして,地方色豊かなロマネスク美術のなかでも早くから注目されてきた。しかしこうした複雑な構造を持った扉口の構成は,12世紀の第2.四半期前後に突然現われた訳ではない。オータン,ヴェズレーの二作例は,これらに先立って制作されたクリュニー修道院第3聖堂の大扉口(1109年〜1115年頃か。現存せず)の強い影響を受けていると看倣されてきたし,またクリュニーの大扉口も,他の地方の先行作例の諸要素を積極的に取り入れ,当時の技術,知識の粋を集めて完成された傑作であったと考えられてきた。それではいかなる具体的な作例,どのような発展段階を経て聖堂の扉口装飾はこれらの完成段階に到達したのだろうか。古くから多くの作例が様式上の類似点や杜会的背景を根拠に数え挙げられながらも,今だにこの問題が解決をみないのも,個々の作例がその年代査定,図像解釈,相互関係や工房の特定など,未決着の基本的課題を抱えているためであろう。一方,近年の積極的な実地調査と科学的な分析方法の導入によって,ブルゴーニュ地方の聖堂建設と建築彫刻をめぐる研究は新たな局面を迎えた。建設工事の請負印に関する組織的調査と作例の詳細な写真分析に基づ

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