鹿島美術研究 年報第10号別冊(1993)
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11世紀末から12世紀前半にかけて飛躍的な発展を遂げた,この地方の扉口構成を厳密romans, Geneve, 1969)以来暫時顧みられていない聖堂扉口の図像構成の問題といっ1. Maconnais地域の小聖堂群Donzy-le-pertuis, Blanot, Chissey, Farges, uchizy, Brancion, Chapaize, Q,Taize, M空翠,Mont-St.-Vincent, La Vineuse St. -Andre-de-Bage られるのである。筆者は1986年,修士論文執筆のための予備調査として,ブルゴーニュ4県の主要なロマネスク聖堂を訪ねた際,南西部の初期扉口装飾の作例を数点実見する機会を得た。今回鹿島美術財団の助成金によって,鉄道による調査が困難なこの地域に再度入り,クリュニー第3聖堂造営前後に制作された主要な聖堂扉口すべてに関する綿密な実地調査を行うことができたのは筆者にとって真に意義深いことであった。これによってに段階的に跡付けるという当初の目的に加えて,クリュニー第3聖堂の建築装飾の正当な位置付けの問題,またY.Christeの研究(Christe,Y., Les Grands portails た二つの重要課題に対しても一歩進んだ示唆を提示することが可能となった。ここでは紙面の制約があるため,1992年8月上旬に実施した今回の調査を4つの領域に分け,行程順に調査対象と所見を述べる。今回の調査の第一の対象は,マコンの北西,ソーヌ河西側に拡がる東西約25km,南北約30kmの丘陵地帯に点在する聖堂グループである(地図参照)。以下に調査予定に組入れた聖堂および実際取材を行なった聖堂を挙げる(聖堂名は原則として地名で掲げ,実見したものに下線を付す。以下同様)。さらに比較すべき重要作例としてTournus(St. -Philibert), Macon (St. -Vincent), この地域に数多く残る11世紀後半から12世紀初頭の幾分小規模な聖堂群は,トゥルニュのサン・フィリベール聖堂(身廊部とナルテックスは11世紀初頭)の基本的特徴を手本としてこれに倣ったものが多い。頑丈な分厚い壁体によって箱型の単廊式構造を強調し(Donzy,Taize, Blanot, Farges),交差部に質素な四角形の鐘塔を一基のみ備える(Brancion,Ougy, Massy, Blanot)。西側扉口は簡素な切妻型玄関で,開ロ部上方のタンパンと楯部分は未分化,無装飾である。従って入口としての張り出し間はなく,開口部左右の側柱を僅かに突出させ,上部の切妻屋根をかたどった張り出-251-

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