鹿島美術研究 年報第10号別冊(1993)
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Cervon, ~, Chalon, !2恥m(考古学博物館,St.-Bengne),~e (St. -Germain, St. -Etienne) ~ 前述したように,この地域に残る後期の作例において,ブルゴーニュ地方の扉口装飾はその頂点を窮めたと見て良いであろう。良く知られたヴェズレーを例にとって見るなら,ナルテックスの大小三つの扉口に主要テーマを振り分け,開口部持送りや中央柱の各面を余すところなく使用して豊かな内容を盛り込んでおり,正にこの地方の扉口装飾におけるあらゆる試みの成果が出揃っていると言えるだろう。また,ヴッシュールにおける各月の象徴と労働(Vezelay→Autun→Avallon)や柱頭における<エジプトヘの逃避>(Autun→Saulieu),くステファヌスの殉教>(Autun→Beaune) など,特定の図像を表わす個性的な表現が極めて忠実に別の手によって継承される典型的な例が見出せるのも興味深い。尚この地域の作例については二度目の調査となるので,前回の調査を補足するかたちで資料の収集,取材を行なった。以上述べてきた行程で調査を実施したが,時間と経費の関係上当初予定していた聖堂すべてを回ることはできなかった。しかし今回の調査によってこの地方における聖堂扉口の展開を跡付け,合わせて近年確立された年代査定の妥当性について吟味することができた。この地方の彫刻作例には,扉口に限らず様式上の錯綜が見られ,もとより同時代の文献資料も乏しいことから厳密な年代設定は困難を極めてきた。しかし近接地域の作例相互の細かな影響関係を重視する最近の動向は,二つの河の合流点でもあり,かつ古代の遺産が豊富に残る,この地方独自の条件を,さらにクリュニー,シトー両修道会の拠点として隆盛期の直中にあったこの時期の特殊な事情を次第に浮き彫りにしつつある。今回の実地調査で得た豊富な資料をもとに,文献資料の比較検討を行ない,図像解釈上の問題を抱えているヴェズレーやクリュニー第3聖堂の作例に関しても今後新たな考察を進めていきたいと考える。-254-

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