文学者のシャルル・ノディエ,建築家のアルフォンス・ド・カイユーなどが編集にあたり,刊行したのがこのシリーズである。フォリオ版・モロッコ皮装のこの大部の書籍にはテキストと共に石版画の挿絵が多数付されている。第一巻くノルマンディー1> およそ半世紀に渡って20数巻が順次刊行されていった。最終的にはくノルマンディー土の1/3のみを扱ってこの企画は未完のまま終了することとなる。(別表参照)。ところで,19世紀フランスにおける最も大規模な刊行物とも言われる本作品は,その書籍としての性格上,絵画史の上からはほとんど言及されることが無かった。むしろ,ロマン主義的潮流の中で,文化史的に,また,石版画史上の重要な出来事として語られることが多かった(M.Twynman "Lithography 1800-1850", London, 1970 ; 斉藤泰嘉/浅子啓子“ロマン派の石版画”,岩崎美術杜,1981,等は近年の代表的研究である)。しかしながら,全26冊(国立西洋美術館所蔵セット),石版画総数2,700■3,000点を数えるこの壮大な企画には,およそ150名程の画家が参加し,石版画下絵ないしは石版画そのものの制作に従事している点が特筆される。この人数は,同一出版物に対して協力した画家の数としては最も多いもののひとつと思われる。大部分はフランス人画家であるが,ボニントン,ハーディングなどのイギリス人画家も一割程度を占める。フランス人画家たちの中には,ジェリコー,アングル,ヴェルネ父子(カルルとオラース),イザベー,ポール・ユエ,ドヴェリアのような著名画家たちもいれば,セレスタン・ナントゥイユ,フラゴナール父子(エヴァリストとテオフィル),ロマン派の小画家アドリアン・ドーザやオペラ座の装飾画家シセリなど,比較的看過ごされがちな作家たちまで,ロマン主義世代を中心として,1810■30年代に活躍した主要画家たちが名を連ねている。本来この出版企画は,大革命期(1789-1800)から帝政期(1800-1815)にかけて,聖堂や修道院,城をはじめとする中世以来の文化財が組織的な破壊を受け,打ち捨てられたままであるのを深く憂慮したテイラー男爵の情熱に負うところが大きい。従って基本的には,それらフランス各地の遺蹟や建築,風景を石版画化し,現況を記録として留めると共に,人々の新たな関心をひこうという目的をもっている。つまり本質的には「地誌的石版画集(トポグラフィカル・リトグラフィー)」と称される,18世紀(1820年)の刊行以後,<ノルマンディー2 ► (1825年),<フランシュ・コンテ>(1825年),<ォーヴェルニュ1, 2 ► (1829年)など,フランスの各地方を対象に3 ► (1828年)の刊行を最後に,フランスの9つの地方,面積にしてほぼフランス全-268-
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