……ソラが世の攻撃に対して『ラッソモア』の序に弁じた所は,曰はく「我が作我れを弁護すべし。我が書は「真」の書也」と。ラスキンが其の『近代画家』中で盛に摸写主義を紙磯して,自然の真(Truthof Nature)を写すのが芸術の目的であるとしたのも,たとひ其の真といふ語の解釈は異なつても,立意に於いて自然主義の根本要件と相合する。……すでに資料8および資料13において見てきた島村抱月の,自然主義とロマンティシズムについて論じた文章の一節である。『近代画家論』の名が見え,同著を抱月がくわしく読んでいたことを伺わせる文章である。21.夏目漱石『三四郎』明治41年9月〜12月『朝日新聞』に連載……(野々宮が三四郎にむかって)「あれは,みんな雪の粉ですよ。かうやつて下から見ると,些とも動いて居ない。然しあれで地上に起こる脱風以上の速力で動いてゐるんですよ。キンを読みましたか」……先に資料11で見た夏目漱石の小説の一節である。おそらく『近代画家論』から引かれたのであろうが,ラスキンの自然に対する見方を小説の一節において用いていることが興味深い。22.蒲原有明「仙人掌と花火のAPPRECIATION」『屋上庭園』第2号明治43年(1910)2月『飛雲抄』昭和13年12月書物展望社所収「仙人掌と花火の鑑賞」そして英吉利は大倫敦のテエムス河のほとりで,「青と銀のノクタアン」が描かれる。バッタアシイ古橋のシルウエットを月夜の灰碧の空気の中に捉へた画人は広重の版画に対する鋭い感覚で張りきつている。……(中略)……老ラスキンをして理性を失はしめた前代未聞の芸術がこ、にある。……-50 -君ラス
元のページ ../index.html#57