0前期会津に戻り,三春に隠棲する晩年の時期となる。71歳の竹林七賢図屏風,82歳(86と読む説もある)の灌湘八景図屏風などの他,年齢は記されないが自画像も基準作となるだろう。以下各時期の作品と特色を検討してみたい。く常陸時代の作品>使用印章一a「雪村」(朱文方印),b「雪村」(朱文大形鼎印),C「雪村」(朱文水差印),d「周継」(白文瓢印)の単独使用及至は組み合わせによる。作品例ー滝見観音図(a),最も初期の作品で,これの手本も現存,謹厳な描写が特色だ。葛花竹葉に蟹図・猫に薔薇図(a)'中国院体花鳥画の影響が強い作品,院体花鳥画はすでに15世紀前半の佐竹13代当主の義人も描き,正宗寺の近く耕山寺に住した祥啓系統の性安もよく似た蟹図を描いた。書画図・灌湘八景図帖ー全8図ー(a• b), 中国院体山水画の影響を受けた作品,八景図帖の中には,夏冬山水図や風濤図のモチーフがすでに生れている。楊柳水閣図(a)・陶淵明臨流賦詩図(a• d),生真面目な描法,若々しい表現が特色,款記の「雪村筆」,「雪村」も素直な書体である。竹林七賢図一双幅ー(b• d)・弾琴図(b)'人物の衣文は伸びやかだが,打ち込みが少なく肥痩もない。背景は生真面目で清新な描法である。月夜山水図(b• d)の岩や樹木の描法もこれによく似ている。なお荏柄天神図(b• d)も印章分類からすればこの時期で,従って一般に流布していた図像が手本になったのだろう。夙々鳥図や白衣観音図(b)は,この時期の完成された表現だが,観音拝宝塔図(dの印形だが少し異なる)は,もっと熟練期の作かもしれない。辛羅に春蘭図(a• c • d)は,若いころ「中居斎」の号をもっていたことも示している。0後期使用印章一eの1「雪村」(白文方印)の単独使用で,常陸時代の後期のみに用いられる。夏冬山水図は中国絵画を学んだ集大成,風濤図はもちろんこの時期の極点に立つ作品となる。ともに前記した灌湘八景図帖からの,自律的な様式展開も見て取れる作品だ。一方雪村は,この時期新しい表現も試みた。e-1の印を捺し,上に「雪村筆」の款記のある唐子図は,謹厳な描線と濃彩を施し,中国絵画を学んだのであろう,他の作品とは全く異質である。また野莱香魚図も同印だが,これは以後の花弁類をテーマにした先駆的な作品といえよう。牧硲風の裁果図だが,表現は丁寧で初々しさが遺っている。-59 -
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