したが,俗筆,悪態と非難され,次第に書道史の表舞台からは遠ぎかり,張旭・懐素風に吸収されていく。だが,祝允明の狂草書法の書道史上への影響,特に伝統書法のレンガ型構成の拘束からの逸脱の方法は,狂草では行き詰りを見せたが,他の書体へ応用され,書道史は新しい局面を迎えたのである。先の論文では,祝晩年の狂草の新感覚は決して彼の本領ではないとする従来の見解に対して,狂草にこそ本領が現れており,現代的な造形感覚を持ち,明末清初の多様な書を生みだす一つの母体となったという点を強調した。本稿では祝允明以降の狂草の展開とその受容に視野を広げ,紙面構成を軸に,その狂草の革新性を強調し,その本質が当時必ずしも理解されなかったことを明らかにした。ただ,伝統書法の制約を打ち破ろうとした祝の試みには,明末清初に輩出した,既存を脱し,独自の書法を作ろうとした多くの書法家たちに,陰に陽に多大な影響を与えたであろうことは想像に難くない。この意味で,やはり祝允明の狂草が書道史上に果した役割は非常に重大であり,これを近代書法の幕開けに位置づけることは妥当であると考える。図9王鐸草書幅-79 --
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