* * イラストレーション絵解き画とみなして,その所説がいかに視覚形象化されているのか絵と言説を対照さ⑪ 聖衆来迎寺本「六道絵」の調査研究研究者:帝塚山学院大学専任講師滋賀県大津市・聖衆来迎寺所蔵の国宝「六道絵」(以下,聖衆来迎寺本と呼ぶ)は恵心僧都源信の『往生要集』に基づいて描かれた仏教説話画である,と従来から言われている(注1)。しかしながら,近年美術史学において盛んになりつつある「絵画を読む(イメージ・リーディング)」的観点から考えるなら,本作品を単に『往生要集』のせてみる試みよりも,むしろ重要なのは,絵画作品それ自体を観者が読み解くべき対象(テクスト)と位置づけて,作品の意味を創造的に解釈すべきことの方に今日的な意義がある,と私は考える。その際,『往生要集』は本作品を読み解くための特権的な地位を占めるものではなくなり,あくまで絵画テクストを読み込む一助をなす前提(プレテクスト)の一つにその位置に後退させることになる。また,本作品が制作された我国中世の人々の共有していた感覚/世界認識も画中に表象化された内的意味の総合的理解のためのこれまた重要な前提(コンテクスト)とみなしうるものであり,これらをもって解釈の制御と保証をなすことが大切となる。この報告は,こうしたテクスト・プレテクスト・コンテクストといった構造の中で,聖衆来迎寺本十五幅のうち特に名画として知られる「人道不浄相図」を例にとり,本図を心性史的視点から解読する一つの試みである。まず「人道不浄相図」の図様と表現を概観してみよう。本図は画面上部の満開の桜の木の下に横たわる女人に始まり,紅葉のもとで腐り果て,鳥獣に喰いちぎられ,やがては散りじりの骨と化していく屍体の変化の過程を順番に描いている。その様子は,冷静な観察眼で屍体をじっくりと眺め,死臭の匂うばかりにリアルに,かつ四季の移ろいをあらわす大和絵的手法を用いて,緻密なまでに描写がなされている。本図の図様と表現は,一見『往生要集』の次の言説に忠実に基づいて描かれたもののように見受けられる(注2)。「いはんやまた命終の後は,塚の間に捐捨すれば,ーニ日乃至七日を経るに,その身腿れ脹れ,色は青膀に変じて,臭く爛れ,皮は穿けて,膿血流れ出づ。鵡・鷲・鵠.果・野千.狗等,種種の禽獣,櫨み製いて食い嗽む。禽獣食い已りて,不浄潰れ爛る加須屋誠-96-
元のページ ../index.html#104