鹿島美術研究 年報第11号別冊(1994)
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以上,様々の要素を推察したが,残念ながら殆どの作品について信頼すべき伝来は残されていないのが現状である。なお尊像別にみれば仏像では釈迦誕生仏が6例もある。これは請米に際して運搬が容易なことがまず考えられよう。仏画においては阿弥陀如来,楊柳観音,地蔵十王図,十王図などが注目されるが,これらは彼の地にあっても時代を越えて広く信仰流布されていたもので,請来に係わった者の選択した結果とは思えない。次に,先記した仏像・仏画のうち特に重要と思われるものについて,やや詳しく考察することにしたい。仏像では香川・六万寺の金銅仏3体が,極めて興味深い。まず如来形立像I〔図1〕は蛾型による一鋳造で,像高9.3センチである。右手は屈腎して掌を前にして五指を伸ばす施無畏印,左手は屈腎して掌を前にして第一・ニ・三指を伸ばした与願印である。頭部は素髪で肉髯部は大きく半球状に盛り上がり,頭部の頂上よりやや前部に位置している。耳染は短くして,目は細く,口もとは少し上げ気味にして相好はわずかに微笑みをたたえている。胸には僧祇支を表し,通肩に袈裟をまとっている。腹前から下方に六条のU字形の衣文線を表し,衣端は鰭状に大きく広がり正面観はいわゆる二等辺三角形をみせる。背面は平滑で背中の中央に柄が突起している。現状では足首より下部が欠失している。この像は鰭状の衣端,盛り上がった肉髯,平滑な背面などに特徴がみられるが,とりわけ鰭状の衣端は韓国・辛卯銘の無量寿三腺像や韓国・澗松美術館蔵金銅菩薩立像(6世紀末〜7世紀初)など朝鮮三国時代に,しばしばみられる。以上のような点を考慮すれば,この像は朝鮮三国時代,おそらく7世紀初期の制作になるであろう。そして背面に光背を取り付ける柄がみられることから,ー光三尊形式の中尊とみられる。つぎに如来形立像II〔図2〕は体部と台座部が蟻型による一鋳造で像高9.6センチ,右手施無畏印,左手は与願印に結んでおり,頭部は素髪で扁平な肉髯を表し相好は穏やかで,耳が短いため角ばった面部となっている。衣部は襟を立て,胸を大きく開きそこに僧祇支を表し,袈裟を通肩に纏う。側面からみると顔をやや前につきだしているようにみえるが,これは左首元で亀裂が入り,少し前に傾いたために強調されたものであろう。面奥はかなり深いが胸奥や腰奥は薄く台座は円形で八葉の反花を作り出している。類似する像を博捜すると胸を大きく開ける点は韓国・国立中央博物館蔵の金銅如来形立像(朝鮮三国時代)や大阪市立美術館蔵の金銅如米立像(三国時代)な-109-

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