鹿島美術研究 年報第11号別冊(1994)
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(1) 短冊形は正方形に近い。その内容は解読できない。(2) 「七賓口賓樹」題記は,『観無量寿経』像想観(形像観)にみえる「七賓荘巌賓地賓池賓樹」からとられたのでないかと考えられる(注12)。樹木1本が配置される。樹木は樹幹から大きい枝2本に分岐する。広葉樹の葉を線彫りによって表現する。(3) 短冊形は解読できない。樹木2本が配置される。樹葉上に楼閣1棟をのせる。樹葉は(2)の図様と異なって,霊芝のような形状に表される。楼閣は入母屋の屋根の部分を見せる。樹葉と楼閣は線彫りによって表現される。図様からみて,『観無量寿経』樹想観(宝樹観)を図像化したと考えられる。(4) 「五百賓棲」題記は,『観無量舟経』総観(宝楼観)にみえる「五百億賓棲」をさすと考えられる(注13)。樹木2本か配置される。樹葉上に楼閣をのせる。樹木の形態は(3)の図様に類似する。(5) 「上品下生」題記は『観無量寿経』上輩生観の「上品下生」に相当する。往生者1謳が蓮華から顔を出す姿に表す。往生者は童子形で,上半身を露出する。顔面は摩耗がいちじるしく判然としない。蓮華は茎を長くのばし,花をちょうど横からみた形に,線彫りで表す。蓮葉も表現される。(6) 「上品中生」題記は『観無量寿経』上輩生観の「上品中生」に相当する。蓮華上に往生者1謳が配置される。上方に鳥2羽が飛ぶ。(5)と同様に,蓮茎が蓮池よりのびる。蓮華は完全に開いており,花弁のみが線彫りによって表される。その蓮閃上に坐す往生者は童子形で,面貌は摩耗し判然としない。往生者の手より雲気のごときものを発する。往生者の上方を飛ぶ鳥は白烏あるいは鵞鳥の類である。(7) 「上品/住生」短冊形は正方形に近い。題記には「上品住生」とあるが,『観無量寿経』上輩生観の「上品上生」をさすと考えられる(注14)。童子1躯が台座上で合掌し践坐する姿に表される。面貌は摩耗し判然としない。方-135-

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