鹿島美術研究 年報第11号別冊(1994)
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形式は横長の矩形で,1 〜 3段に1■ 4コマの区画が並んでいる。この構成は,前半部の第35篇から現れたリボン状の水平帯や円柱の枠を受け継ぐものと言えるだろう。また64篇の円形構図は,ユトレヒト,エドウィン両詩篇と共通している〔図1〕。しかしながら各コマの主題は,テキストの章句を反映するものよりも旧約・新約図像を中心とした説話表現が目立っている(注3)。従って“リテラル”な性格が薄れているのは確かであろう。複数のコマが連続する物語の一部を構成するケース,異質の主題の併置によってタイポロジカルな意味を呈示するケースと共に,挿絵全体の一貰性が曖昧なものもある。新約図像,特にキリストの受難伝に関して,ミースが14世紀カタロニアの祭壇画(ニューヨーク,モルガン図書館)との様式,図像的類似性を指摘している。また近年はより特定の主題を分析するために,1, 2点の挿絵に焦点を当てた研究も行われている(注4)。こうした成果を眺めてみると,この部分に関してよりシステマティックな考察が必要に思われる。全挿絵の内容を詳しく検討する前に,いくつかの例を取り上げて挿絵の構造を探ってみたい。2.説話主題の配列方法挿絵のコマに描かれた主題相互の関係を眺めていくと,特に旧約や新約図像の場合に,連続する物語性が見出だされることがある。例えば72篇では左から右にくサミュA.一貫したテーマに基づくもの図1BN8846 64篇(f.109v)-156-

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