⑱ 仏足文を有する阿弥陀如来立像の調査研究研究者:東京国立博物館資料部資料第三研究室長山本鎌倉時代の仏像彫刻のやや特殊な作例として,俗に「歯吹き阿弥陀」あるいは「歯吹き如来」などと称される系統の像が挙げられる。これらは要するに,わずかに口をひらき,その内部に歯数本をのぞかせて「歯相」を表現する阿弥陀如来立像の遺品である。この一群の像は,歯相の表現のほかにも,形状,構造技法上特異な点がみられる。それは,①螺髪の一粒一粒を別製としてそこに銅線を巻きつけて髪をあらわす,②両足裏に柄を造らず,そこに「千輻輪相」すなわち仏足文をあらわす,などの点である。「歯吹き阿弥陀」の作例については,これまでにも研究があるが,近年,歯相の表現をみせない像のうちにも,上記の①②の特徴をそなえるもの,あるいは②の特徴のみそなえるものがあることが報告されている。そのなかには製作年代・作者を明らかにするもの,あるいは従来の報告例よりもはやい時期の作と考えられるものもふくまれている。本研究では,こうした現状にかんがみ,「歯吹き阿弥陀」をふくむこれら一群の像を一括して,その共通の特徴である②によって「仏足文を有する阿弥陀如来立像」と総称し,より広範囲に資料を収集し,この種の像の成立・展開の様相について,より具体的な把握をこころみた。ここにはその概要を報告する。作例一覧本研究の対象とした作例は,原則として鎌倉時代ないし南北朝時代の製作とみられる,仏足文を有する阿弥陀如来立像である。これらの像は,いわゆる足柄を造らず,像底部にうがった2個の円孔に雇い柄を通して台座と接合するという構造が共通している。この仕様は足裏に仏足文を表現するためのくふうにほかならないと思われるので,ここでは,足部が後補になるもの,あるいは摩滅等のため仏足文が確認できないものでも,この仕様をもつ作例は対象にふくめた。管見にふれた,以上の条件をみたす作例は下記のとおりである。所在地・所蔵者名一~象高,品質構造,仏足文に関する備考,歯相に関する備考,螺髪に関する備考,着衣形式分類,その他,の順に記載した(注1)(着衣形式の分類法については後述する)。① 山形県寒河江市・本山慈恩寺像---f象高98.9cm。ヒノキ材寄木造り,金泥塗り・切金,玉眼。仏足文の有無は確認していない。かすかに口をひらくようにあらわし,勉-164-
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