他の作例は基本的な着衣形式は同様でも,細部に相違があって,安阿弥様とはいいがたい。そのなかで,②千眼寺その1像,③同その2像,④万福寺像〔図5〕,⑩極楽寺像⑪本誓寺その1像〔図6〕,⑫同その2像,⑬善福寺像,⑭浄禅寺像,⑳本覚寺像の9例の着衣・衣文の形式には細部にいたるまで,かなりの共通点があり,これらを着衣形式B-2とした。これらの像では,肉巻が低平でめだたない頭部の形,上瞼を腫れぼったくあらわした(二重にするものもある),ややきつい表情,頬・顎などの豊かな肉づけなどの頭部の表現,上背部や臀部に厚く肉をつけた体部,さらに頭部をやや前傾させる姿勢など,さまざまな共通点があって,同一の祖型をもつものと考えられる。鎌倉ないし南北朝期の彫刻としては異色ある表現は,たとえばカナダ・ロイヤルオンタリオ美術館所蔵の金・明正6年(1195)銘観音・勢至菩薩立像などを連想させるものがある。確証はないが,これらの原像が中国からの請米像であった可能性を考えておきたい。なお,胸前に内衣をのぞかせる⑥東京国立博物館その1像はB-2にちかいが,着衣形式B-3とした〔図7〕。作風のうえでもB-2の諸像ほどの異風はない。足部の形状・構造技法をめぐって冒頭にのべたとおり,これらの像の仏足文をあらわすための構造的なくふうは基本的には同工である。当初の台座が失われているもの,台座を接合する屈い柄がいま失図5茨城・万福寺像図6神奈川•本誓寺その1像図7東京国立博物館その1像-168-
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