鹿島美術研究 年報第11号別冊(1994)
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/ 中国彫刻では,隋時代の作とみられる大阪府・堺市博物館観音菩薩立像が像底の左右足裏位置に長い鉄釘を打ち込んでおり,それが像の支持用であったと想像されている。また,わが8-9世紀,唐代美術の影響の濃厚な時期の遺品にも,こうした技法があったことを推測される例がある。正倉院宝物の刻彫蓮華仏座2基(南倉161)は,ぉそらく檀像に付属したものとみられる白檀製の台座であるが,それぞれ蓮肉上面に鉄製および木製の柄2本を立てている〔図10〕。東大寺弥勒仏坐像(試みの大仏)は像底をわずかに剖りあげるが,左右2個の柄受けを剖り残し,そこに丸柄を挿した痕跡がある〔図11〕。京都市・真正極楽寺阿弥陀如来立像も台座に立てた2本の鉄釘を足裏に挿す構造である。この像は『真如堂縁起』によればもと比叡山常行堂安置の円仁自作の像で,正暦3年(992)建立の真正極楽寺本堂に移されたものというが,作風には10世紀末ごろの特色がみられ,正暦3年ごろに古像を模刻したと推測されている。祖型となった像は不詳であるが,こうした足部の仕様をもっていたとすれば,円仁請来の中国彫刻であったかもしれない。このような例から,下から柄を出して上に挿す,という接合法が中国美術の伝統のなかにあった可能性が推測される(注4)。その技法が仏足文表現に応用されたのであろう。仏足文をあらわすことの意味については,さまざまに論じられているが,仏三十二相のひとつである「足下二輪相」「足下千輻輪相」であることはいうまでもない。阿弥陀如来もそれをそなえることは諸経典に説かれるが,源信の『往生要集』にもこれを具体的に記述して強調するから,来迎形の阿弥陀像にその表現のあることはゆえなしとしない。また,足柄のない構造についても,『観無量寿経』第七観に説く「空中に住立」する無量寿仏の姿とむすびつける見解がある(小山正文氏による)。図10刻彫蓮華仏座(正倉院宝物)ノ/' 図11奈良・東大寺弥勒仏坐像像底-170-`

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