特異な表現いわゆる「歯吹き」の表現をみせる像は5例をかぞえる。いずれも従来紹介されているものである。唇の間をわずかに剖りぬいて,口内に歯数本を植え込む技法による。歯の材質についてくわしく検討していないが,⑲本誓寺その1像の歯について,角あるいは骨の類かとする報告がある(注6)。螺髪を表現するのに,銅線の類を巻きつけた木心を植え付ける像は8例をかぞえる。銅線を木心に巻く技法は,⑫善福寺像について薄井和男氏が説明しているように(注7)'細い銅線数本を嵯ったワイヤー状のものをもちい,その端を木心頂部の孔に挿して留めているようである。なお,⑥東京国立博物館その1像は金属線でなく,糸を巻き,漆で固めているようにみえ,特殊である。歯をあらわすことの意味は,仏三十二相のうちの「四十歯相」「歯斉相」「牙白相」などの造形化であろうし,銅線巻きの螺髪も「螺髪右旋」の具体的表現であろう。手首先を銅製とする像は,3例が確認されているが,木に銅を継ぐというこの種の技法は従来の常識では信じがたいものであり,一見しただけでは判断が困難であるから,精査を行っていない他例中になお同類のもののある可能性なしとしない。手を銅製とすることと仏三十二相・八十種好との関係はみいだせない。手を銅で造るならば足も同様にする発想もありそうに思うが,⑧乗願寺像,⑩本誓寺その1像では足は木製である(⑫善福寺像の足は後補)。以上のような,この種の像に特有の特異な表現・技法と,主として着衣形式による分類との相関関係を表示すると,つぎのようになる。着衣形式歯相銅線巻き螺髪⑧⑰⑬ 銅製の手首先⑧ 一目瞭然のとおり,着衣形式B-2として一括した,形式・表現上の共通点の多いグループの像に,特異な表現・技法が集中している。これらの祖型となった像にこの種の特異な表現・技法がもちいられていた可能性,あるいは厳密には一致しないかもしれないが,それらを誘発するような表現があった可能性が考えられる。原像が中国からの請来像であった可能性を前に示唆したか,中国彫刻にこれに類する技法がみられるかどうかは今後の検討を要しよう。なお,⑧乗願寺像は着衣形式はAに属するが,その他の点ではB-2の諸像との共通が多くみられる。A B-1 B-2 B-3 ④⑨⑩⑬⑲ ④⑪⑫⑬⑲ ⑥ ⑩⑫ -171-
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