鹿島美術研究 年報第11号別冊(1994)
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I シエナ,旧修道院サンタ・マルタの諸聖人伝壁画サンタ・マルタの礼拝堂と修道院はシエナの郊外地区に14世紀に建立される(注1)。当初からアウグスティヌス会系の女子修道院として建てられ,おもに有産階級の,伴侶をなくした婦人が修道した。1811年に,ナポレオン政府により廃院が決められ1814年までその軍隊が駐留した。1816年まで,一時音楽院として使われた後,孤児の救護所となり,1860年から1975年までは「サンタ・マルタ孤児院」として活用された。その後,一部は大学学生寮,個人住宅,市役所の事務室などになるが,大部分は放棄され荒れるに任されていた(注2)。修道院回廊の東南の二壁面全体に聖書,諸聖人伝を主題にする“モノクローム”のフレスコ画が残る。古いものは14世紀末から15世紀初めの制作になるが,16世紀様式の交差ヴォールトが後代に付加されたためにフレスコ画の一部が覆い隠されている。東壁は5つ,南壁は7つの半円状のアーチ型ルネットによる径間でしきられる(注3)。また東壁は16,17世紀の複数の画家によるテンペラ,漆喰による上塗りを1988年の修復で剥がし,その下からも15世紀初めのフレスコ画が発見された。図1サンタ・マルタ修道院回廊壁画東面聖アゴスチヌス伝図3サンタ・マルタ修道院聖アントニウスと聖パウルス図4サンタ・マルタ修道院図2サンタ・マルタ修道院回廊壁画南面会話をする三人の修道僧ハナキャベツに化けた悪魔を食べる修道女-10-

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