⑲ 「古赤絵」と称される明代上絵付陶磁の様式的特質に関して研究者:町田市立博物館学芸貝矢島律子「古赤絵」という語の由来ははっきりしない。南京赤絵や呉須赤絵などの明代後期の五彩に比べると「古い調子」の赤絵であるという意味合いの語である。近年では,この曖昧な語を避けて「五彩」という語を,より学術的な用語として用いることが多い。しかし,この「古赤絵」という語が適用される作品の実態は,民窯五彩のうちの嘉靖年間迄のいわば景徳鎮における五彩の発展期の作をその範囲としている。「古赤絵」という語は,広義には「嘉靖年間までの帝王年款を持たない,上絵付中心の五彩」と定義して差しつかえなかろう。日本に存在する「古赤絵」は多量で,全てを調査することはできない。代表的な作品に的を絞って調査を計画したが,それでも調査対象はかなりの数にのぼり,また諸般の事情により実見できなかった作品もあった。従ってこの調査は現在も進行中という状況にある。ただ基準的な作品を押さえることはできたように思われるので,それらの知見を基に明代前半期の五彩の様相を考察し,加えて今後の研究課題を明確にして報告としたい。今回の調査によって15世紀の五彩と確信するに至った作品が次の①②③である。① 東京国立博物館蔵五彩獅子文瓶高24.8cmいわゆる玉壷春瓶である。影青風の青味の強い釉調,腰の張った重心の低い形姿や砂の付着した高台の作りなどは元末明初とされている釉裏紅玉壷春瓶に近い。この瓶に見られる珠取り獅子文は,明代を通して好まれた文様ではあるが,15世紀後半から張っており,威風を帯びた古調な表情を持っている。このような五彩玉壷春瓶は日本で他に3例(大和文華館蔵玉取り獅子文瓶,梅沢彦太郎氏が『陶説』1962年1月号で元の赤絵として紹介した唐草文瓶,小学館世界陶磁全集14『明』所収の束蓮文瓶)があるが,器形や絵付等,皆大体同じ調子である。この中で唐草文瓶については,描かれている花文が,洪武期とされる釉裏紅に見られることを藤岡了ー氏が既に指摘している。また,大和文華館蔵獅子文瓶の頸下部に描か16世紀にかけての輸出青花などに多く見られる獅子文と違って,獅子の面は細長く角-175-
元のページ ../index.html#183