鹿島美術研究 年報第11号別冊(1994)
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ヽノれている,簡略な花唐草文の枝葉の描法は,景徳鎮落馬橋の明初期(15世紀初頭)とされる窯業堆積から出土した赤絵唐草文高足杯片のそれに非常に近い。以上の点から,①は少なくとも15世紀前半,それも初頭に近い作と考えておきたい。①東京国立博物館蔵玉取り獅子文瓶② 五彩孔雀文盤っている。歪みのないしっかりとした作りで,高台内と畳付きを除いて,微かに青味を帯びた釉がかかっている。高台内には薄くなって解読不能な墨書があり,その脇に朱で「玉」らしき文字が見える。内側面には宝相華唐草文,中央には二羽の孔雀と大輪の牡丹,外側面には鳳凰唐草文が描かれている。全ての文様は強靭かつ軽快な赤の筆線で輪郭を描いてから,赤・羽毛の描写,外側面の鳳凰胴体部分の細かい塗り分けなどには手の込んだ絵付けがされている。類品にはトプカプ・サライ博物館蔵孔雀牡丹文盤がある。作りや絵付けの特徴はほぼ一致するが,外側面には八宝を載いた宝相華唐草文が描かれている。この孔雀文盤は「古赤絵」の盤の中では異色の存在である。歪みのない上質な胎,無釉の高台,強い筆致,複雑だが均整のとれた配色と賦彩の結果,格調のある作となっている。高台内に釉をかけない盤は,青花の場合を考えても16世紀以降には少ない。内側面の宝相華唐草文は,明代を通じて好まれた文様であるが,時代を下るに従って簡略なものに変化していく。この孔雀文盤の宝相華唐草文の形式は景徳鎮珠山から出土した径30cmを超える大きな盤である。やや下部が張った側壁はそのまま真直ぐ立ち上が黄・緑•青の四色で賦彩されている。見込み牡丹の花弁の描き分けや孔雀胴体部分の② 孔雀文盤-176-

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