鹿島美術研究 年報第11号別冊(1994)
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2. コルトーナの風景画ていないことにもよると思われる。しかし,1620年代の半ばにコルトーナの最初の伝記を著述したマンチーニは,画家最初の代表的歴史画である『バッカスの勝利』などと並んで,彼の手になる『リーパ・グランデ〔ローマの港〕の夜景』に言及し,その詳細な描写を称賛している(注4)。このことに象徴されるように,この時期,コルトーナにとって風景画もそのレパートリーの一部だった。彼は,1620年代,少なからぎる,そしてまた多様な風景画を制作しているのだ。現在知られる,コルトーナの主要な風景画は,以下である(注5)。A)河と橋のある風景(17X 27. 5cm)(カピトリーノ美術館蔵)〔図1〕B)港の風景(16.2X26.7cm)(同上)〔図2〕C) トルファのミョウバン鉱山の風景(61X 75cm)(同上)〔図3〕D)二つの神殿のある古代風風景(111.5X85.8cm)(ヴァティカン美術館)〔図4〕E)カステル・フザーノ〔サケッティ家別邸〕の眺望(83X 110cm)(ローマ古美術館:バルベリーニ宮殿)〔図5]F)聖ペテロと聖アンデレの招命のある風景(28.7X57.4cm)(ケンブリッジ,フィッツウイリアム美術館)〔図6〕G)聖ペテロと聖アンデレの招命のある風景(111.7Xl67.5cm)(チャツワース,デヴォンシャー公コレクション)〔図7〕これらの作品はいずれも,18世紀の半ば過ぎに,サケッティ・コレクションが一括して教皇庁に売却されるまで同家にあったことが記録から知られており(注6),1620 年代に,コルトーナの主要なパトロンだったマルチェッロ・サケッティの注文によって描かれたものと考えられている。しかし制作年代を確定し得るものは無い。A)およびB)は,対幅として描かれたものだろうが,その小ささからしても比較的初期の作例ではないかと想像される。C)およびE)は,実景に基づくとされる作品であり,ある程度の範囲で制作年代を限定することが可能である。ローマの北西ブラッチァーノ湖の近くに位置するトルファ山地のミョウバン鉱山をサケッティ家が購入したのは,1625年のことであり,従ってC)もそれから程なく描-186-

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