ストの頭部,第2ルネットには,a 動物の姿をした悪魔を踏みにじる聖女,b 壺から鳥を出す僧,C 会話をする3人の僧,d 死体の前で鼻をつまむ修道僧が見られる。Cについては老僧のそばに猪,天使がいることから,カヴァルカの「聖人伝」にある“聖なる会話には天使が現われ,俗なる会話には豚(悪魔)が現われる”説話の一部とも考えられるが,猪であることから単に説教をする聖アントニウスを描いたとも考えられる(注7)。第3ルネットには,a 女性に化けた悪魔,b 水辺のそばに座る修道士,C 老修道士,d 鹿の角を見る修道士,e 月桂樹の冠をいだく上品な装いの騎乗の俗人,f 兵士に売られる前述の男,第4ルネットは中央に17世紀のピエタ像,a 壺を持つ僧,b 烏と僧,C 洞穴に入る若い僧,d 隠修士,聖アントニウス(?),第5ルネットには,a 釜茄でにされる聖人,b 首吊りをする修道女,投身自殺をする修道女,C 椅子で眠る老修道士の前に脆く七重の冠をいだく若い修道士,d 聖パウルスを埋葬する聖アントニウス,e キャベツに化けた悪魔を食べる修道女,を描く。bの密通の嫌疑をかけられた処女の修道女が自殺をする場面はカヴァルカ(vol2 cap xvii)に見つけられるが一修道女の範例として挙げられるのみである。第6ルネットには,a テーブルの前に座り動物に食べ物を与える修道士,b ベッドに横たわり食物を拒絶する男,C 動物の屍,d 跳きライオンの目を治す修道士,e 洞穴の中で脆き祈る修道士が描かれる。ヒエロニムスの伝説の中で,砂漠での修行の際に野獣すらも聖人に従うという件りや,ライオンの足にささった刺をとる箇所があるが,a, Cはそれらを範例としたものと考えられる。第6ルネットの各場面は小鳥や草花の中に人物を配し,第1,第2'第3ルネットの岩場の風景に比べると明らかに装飾性が高い。修道院からの外出が禁じられた修道女たちにとって,壁画に描かれた長閑かな郊外の風景は,憩いが求められた回廊の装飾に叶ったものであった。また,当時,女子修道院における,愛玩動物の飼育に関する制限をきめた詔勅がたびたび出された。それは修道女たちの小動物への偏愛が過剰であったことを語り,壁画上の小猫のように愛らしく描かれたライオンや数々の小鳥は彼女たちの生活と無関係ではない(注8)。また,修道士,隠修士の慈愛が動物にまで及ぶものであったことを忘れるわけにはいかない。その場面を自然を介する神への愛,もしくは神の行為の模倣としてとらえることも可能である(注9)。この研究で扱う聖人伝の描かれた南壁は数人の画家の手によることが様式の違いから確認される。この壁画の学術的な分析を初めに行ったのはオフナーであり,シエナ-12 -
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