2.菩薩像成都万佛寺址から出土した台座〔図15,16〕に表された菩薩像を例にあげて菩薩像の特色を考察する。成都万佛寺址から出土した円筒形台座のまわりにはそれまでの中国彫刻ではみることのできなかったきわめて珍しい6体の裸体形菩薩像が高浮彫で表されている。万佛寺台座には銘文がない。しかし,同形の裸体形菩薩像が北響堂山石窟にはこれと様式を同じくすると考えられる菩藷像が造営されていることから(注9)'万佛寺台座の造立年代は6世紀半ばを下らないと推測できよう。まずイ)身体表現について:6体の菩薩像は,上半身を裸体であらわしているために,身体の豊かな肉付けの凹凸や輪郭線がきわめて明瞭に表現されており,著しく肉感的な印象を与えている。また下半身では遊足の姿勢をとるために,像のポーズは動きに富んでいる。身体表現にみられるこうした特徴は,インド・グプタ朝の菩薩像にも共通して指摘される特色なのである。このように,身体表現の点で,万佛寺台座の菩薩像にはインド・グプタ朝の菩薩像との間に著しい類似性があわせて指摘されるのであるが,しかし,その一方では,万佛寺台座の菩薩像の身体表現には,インド・グプタ朝の菩薩像にはまったくみることのできない特異な表現も指摘できるのである。それは,万佛寺台座の菩薩像においては,腹部を球体に近い形に膨らませている点である。すなわち,万佛寺の菩薩像は,腹部に空気をいっぱい吸い込んでふくらませたかのように,腹部が異常に膨らんでいる。そして腰部を纏っている下裳の上端が腹部の中央に近づくにつれて徐徐にその位置が下がり,中央部ではヘソの線よりかなりさがったところまで湾曲している〔図17〕。この下裳の表現は,まるで腹部が球体のように膨らんでいるために,その脹らみに圧迫されて下裳が下がったかのような印象を与える。インド・グプタ朝の菩薩像〔図18〕には,このように腹部を球体状に膨らませ,その結果下裳が圧迫されて垂下するという作例を見いだすことができない。たとえば,グプタ朝のサールナート菩薩像では,腹部を膨らますことなく,腹部の筋肉が腰帯を幾分圧迫しているかのように表して,腹部の脹らみを暗示的に表現しているのみである。それに対し,グプタ朝のヒンドウ教の神像には,腹部を膨らませた表現がみられることが重要である。すなわち,ウダヤギリ第文洞(401年)の作例をはじめとするおおくのガネーシヤ像,5 〜 6世紀の間にラザスタンで制作された妊娠した女神像〔図19〕-214-
元のページ ../index.html#222