などヒンドゥー教の神像には,腹部を球体状におおきく誇張した作例がみられるのである。ただし,これらの作例においては,腹部を完全な球体状といってもよいはど膨らみを誇張しており,その点万佛寺台座の菩薩像にみられる穏やかな脹らみとはやや表現を異にしていることも正確に区別する必要がある。インドのヒンドゥー教神像にみられる腹部の膨らみを強調する表現は,東南アジアのヒンドゥー像にも継承されている。たとえば,7世紀初期の制作されたカンボジアのヒンドウ教の女神像〔図20,21〕には膨らませた腹部と裳の中央部を下方に湾曲させた裳の形式の双方が,ともに採用されている。また7世紀に制作されたと推定されるタイのヴィシュヌ像〔図22,23〕にもその双方の形式をみることができる。これらのカンボジアやタイの作例においては,先ほどあげたインド・グプタ朝のヒンドウ教神像に比べて,腹部の脹らみが著しく穏やかに表されているが,こうした腹部のモデリングは,万佛寺台座の菩薩像にみられる腹部の表現と著しく近いといってよいであろう。先にものべたように,マイケル・サリバン氏は北斉・北周様式が,インドの直接の影響によってではなく,むしろインド化された東南アジア諸国の彫刻を模倣することによって成立した可能性がおおきいという意見を提示したが,その際,サリバン氏はその代表的な中国の作例としてこの万佛寺台座をあげている(注10)。すなわち,サリバン氏は,万佛寺台座にみられる表現がタイのドヴァーラヴァティー王朝の彫刻様式や,ベトナムのドン・ズオンなどから出土したチャンパ彫刻に似通っていることを指摘した。サリバン氏は万佛寺台座の菩薩像と東南アジア彫刻との類似関係について,身体表現や著衣形式など具体的な観点よりする検討は加えていないが,しかし,こうしたサリバン氏の指摘は,万佛寺像の作風に東南アジア彫刻の影響がつよく加えられていることを正確に洞察したものとして評価されてよいであろう。次に口)著衣形式:さて,これまで検討してきた万佛寺台座の菩薩像と,東南アジアのヒンドゥー教神像との類似性は,衣の表現を検討してみても同様に指摘することができる。すなわち,まず万佛寺台座の菩薩像は,下裳の上端を腰の部分で折り返して腰帯のそとに垂下させている。それに対し,インド・グプタ朝の菩薩像には,この折り返しの形式をみることができないのである。一方,スリランカの4-5世紀の制作と推定される女神像〔図24ぶ7憔紀末から8世紀初期の間に制作されたと推定されるカンボジアのヒンドゥー教の神像〔図25〕には,この裳の折り返しをみることがで-216-
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