鹿島美術研究 年報第11号別冊(1994)
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ても,その評伝という形式上,作品にかかわる論及は充分とは言い難い。したがって,全体を系統立て総合的に論じた視点はいまだ提示されていないといえるだろう。また松本竣介の作品についての図版資料には,主なものに『松本竣介画集』(美術出版1949年5月)『松本竣介画集』(平凡社1963年3月)『松本竣介素描』(綜合工房1977年10月)『松本竣介油彩』(綜合工房1978年7月)『松本竣介手帖』(綜合工房1978 年7月)が画集としてあるほか,「松本竣介展」(1977年11月3日〜16日小田急グランドギャラリー)「松本竣介展」(1986年4月5日〜6月15日東京国立近代美術館ほか)のカタログがあり,かなりの作品を検見することができる。時代区分現在松本竣介の作品についてその制作時期を区分しているのは,佐波甫によるものがほとんど唯ーといっていい。彼によれば,(1)1931年から32年にかけての太平洋画会研究所後期の赤笠会結成時期,(2)1936年から37年頃の『雑記帳』編集時代,(3)1940年前後の二科会時代,(4)1943年から44年にかけての新人画会結成時期,(5)戦後の1945年から病没する48年までに分けられている(注2)。しかしながら,この区分は基準となるところも明確ではなく,きわめて便宜的なものである。一般的には,作品を論じるための時代区分は,様式や画風の変化,制作場所の違いなどによることが多い。松本の場合は,その作品のモチーフを「建物」と「人物」,あるいは「建物群」と「人物群」の二つのカテゴリーに分類し,それらが画面にどのように現われてくるかによって次の五つの時期に分けるのが最も適当であると考えられる。(1)第1期盛岡時代(1912■1928)(2)第2期修行時代(1929■1934)(3)第3期二科時代(1935■1940)(4)第4期戦争期(1940■1945)(5)第5期戦後期(1945■1948)注1佐々木一成「『人物を主とせる構想画』の成立一松本竣介とゲルオグ・グロッスー」(『岩手県立博物館研究報告』1岩手県立博物館1983年3月号)柳沢秀行「松本竣介『都会シリーズ』考察」(『藝叢』筑波大学1991年)などがある。-224-

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