鹿島美術研究 年報第11号別冊(1994)
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ヽ作品よりうかがえる。例として,文永10年(1273)制作の経典見返絵,春日若宮影向図をかかげる〔図1〕。爛漫とした風情の春日の地に,若宮や神人らが描かれている。若宮,神人,そして発願者経玄の図像をのぞけば,春日の名所絵そのものといった図様である。霞の中からは杜殿の屋根と千木がのぞき,三笠山と杜殿とが,この地が春日の神域であることをあらわしている。すなわち図様の実質は宮曼荼羅である。こうした神域表現の先縦は,やはり名所絵にもとめられる。13世紀前半の佐竹本三十六歌仙絵中の住吉杜頭図では,海浜の景にただよう茫洋たる霞の間から,住吉社の杜殿の屋根が見えかくれしている〔図2〕。見返絵,住吉杜頭図ともに,社殿の全貌を説明的に描くことを控え,むしろ場面の景趣を叙情的に表現することにつとめている(注9)。図1春日若宮影向図大東急記念文庫図3春日宮曼荼羅図根津美術館図4春日宮曼荼羅図法隆寺図2住吉社頭図(佐竹本三十六歌仙絵)部分東京国立博物館図5春日宮曼荼羅図湯木美術館.., -242-

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