鹿島美術研究 年報第11号別冊(1994)
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20 奈良固立博物館本21 奈良・薬師寺本(杜寺曼荼羅)22 大阪・正木美術館本(杜寺曼荼羅)121.8 X 39. 4 23 静岡•MOA美術館本24 福岡市美術館本(社寺曼荼羅)25 ハワイ・ホノルル美術館本以下,定型的諸作品を中心に,図様を検討してみる。三笠山,春日山,若草山の三山は,1273年の春日若宮影向図以来,一貫してほぼ同一の配置および描法が継承されている。諸殿舎の建築描写についても,桁行・梁間数などを別にすれば,治承4年(1180)以降の基本的構造を,おおむね正確にあらわしている。また,殿舎間の位置関係も,諸作品をつうじてほぼ現実に即した配置がしめされている。それでは,杜頭に点在する木々などの,風景モチーフについてはどうであろうか。結論からさきに述べれば,樹木などの風景モチーフもまた,かなりのものが,定められたパターンとして継承されていたようである。以下にその様子を,おもに植物モチーフの具体例をあげながら概観してみる。便宜上,杜頭を5つのエリアに分けて記述をすすめる。すなわち,①本社中院,②本杜外院,③若宮杜,④参道沿い,⑤一烏居周辺,の順にみていく。そしてここでは,必要に応じて,1309年の春日験記の諸場面を参照する。春日宮曼荼羅の拡大部分図とでもいうべき社頭の諸場面が描かれていて,中世の春日社頭の様子を知る好資料となっている(注13)。① 本杜中院まず中門前の稲垣の辺りに注目したい。もっとも古様な図様をしめす根津本をみると,稲垣の背後に数本の杉や松が並び,さらにその中央付近には,榊か植えられている〔図6〕。この杉と松は,ほとんどの作品に必ず描かれている。一方,榊の方は,同じく古様な図様のボストン美術館本にもみえ,さらに定型的諸作品では,剥落のために不詳の作品が多いものの,No.8の東京国立博物館本において確認しうる。この中門前は,礼拝者が祈念や参籠をおこなう重要な礼拝空間であった。春日験記においても,この中門付近は13回にわたって描かれ,春日明神の影向や託宣といった霊験が,度々この場所でおこっている。1例として巻7第3段をみると,榊は1本だがはっきりと描かれ,杉の枝越しに春日明神が影向している〔図7〕。室町時代江戸時代-246-118. 6 X 39. 5 105.5 X40. l 156.0 X 60.6 167.1 X 57.0 102.8 X 55. 7 II FF II ”

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