鹿島美術研究 年報第11号別冊(1994)
256/475

② 本杜外院湯木本においては,南門をでてすぐ左手に紅梅が描かれている〔図8〕。この紅梅も,25点中No.3, 4, 5, 8, 9, 10, 14, 15の8点で明らかに確認できる。また,古様なボストン美術館本で,本社西方の外院に目をむけると,一度上方にのび,再び下方にむかって強い屈曲をしめす,独特の枝張りをみせる樹木が目につく〔図9〕。西回廊の慶賀門と清浄門の間,竃殿の南方,酒殿の西方,さらに藤鳥居西方の築地塀前にと,合計4本描かれている。一見,ボストン本を描いた絵師の個性的な筆法によるかに見える樹木表現である。しかし諸作品を子細にみると,本数の異同はあるものの,ボストン本以外にも,15点の作品(No.4, 5, 6, 7, 8, 10, 11, 13, 14, 15, 17, 18, 19, 20, 23)で確認された。すべてボストン本と同様に,独特の枝張りをしめしている。参考として,湯木本の部分図をかかげる〔図10〕。③ 若宮社湯木美術館本をみると,若宮社本殿の瑞垣外の基壇上に,1本の樹木がはえている〔図11〕。おそらく竹柏と考えられる(注14)。これもいくつかの作品で描き継がれている(No.3, 5, 8, 10, 14, 15, 18)。参考として,春日験記巻10第1段をかかげる〔図12〕。基壇上の竹柏はたしかに描かれているが,さらに瑞垣内の大楠にからまる蔦が,瑞垣を越えて,竹柏の幹にからみついている。現在もこの瑞垣内には,大楠の古木があり,やはりその幹には,太い蔦が巻きついている。No.14南市町本のこの場面が注目される〔図13〕。楠は剥落しかけてはいるが,春日験記と同様に,楠と竹柏とがセットで描かれている。南市町本〔図14〕は,諸作品中もっとも大幅で,かつその精細緻密な風景描写を特徴とするが,その精細さは,恣意的になされたというよりは,実際の社頭の観察を前提とするものであろうことが,他の点からもうかがえる。このことについては,後に再度ふれる。④ 参道沿い参道沿いで注意されるモチーフをいくつかあげる。南門を出て二鳥居へいたる途中に,小川をまたぐ二鳥居橋がある。その向かって右手に紅梅を描く作品が数点ある(No.5, 6, 11, 14, 15, 19)。また二烏居の北東には,祓戸杜の小祠がある。その背後に,祠をおおうように枝を張る樹木が,ほとんどすべての作品で描かれる。もっとも古様な根津本でも,祠の位置こそ違うがこの樹木は描かれている。-248-

元のページ  ../index.html#256

このブックを見る