鹿島美術研究 年報第11号別冊(1994)
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③ 19世紀後半のヨーロッパの染織品におけるジャポニスム1)はじめに19世紀のヨーロッパにおいて,日本の絵画や工芸品をもとに日本の図案を取り入れ2) ミュルーズにおける日本様式の染色品について70年代にかけて寄贈されたものがベースとなっている。それらのデザインの特徴は,(ミュルーズ,リヨンを中心に)研究者:京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科博士後期課程た作品が作られるという現象があった。この動きはジャポニスムと呼ばれている。もちろんこれ以前にも日本の美術工芸品はオランダや中国を経由してヨーロッパに紹介されていたが,特に19世紀後半には,かつてないほど貿易が拡大し,万博も開催されるなど日本美術が一般の人々の目に触れる機会が増え,その拡がり方も大きかった。日本の美術がヨーロッパに与えた影響についての研究として代表的なものは,印象派絵画における浮担絵の影響についてである。この研究は既に1960年代頃から盛んになり始めた。しかしジャポニスムの現象は,絵画の他に量産が可能な分野である工芸や染織品,さらに音楽や写真など広範にわたっている。特に染織の分野については,日本の図案を参考にしたと思われる下絵や染織品が1860年代には既にミュルーズ,リヨンといった都市で製作されており数多く現存している。また,これらの生産活動は産業と結びついていたため杜会的な影響も受けながら独自の様式の変化を見せている。手本となる日本の図案はどのような経路でもたらされたのか,更にフランスの染織にとってジャポニスムは何を意味するものであったのか。こうした点に注目しながらいくつかの動きを考察していく。現在ミュルーズの染色美術館には,19世紀後半のフランス人の手による染色布や下絵などが現存している。これらはミュルーズの産業デザイナー,ショーンノプ(注1)'ショウブ(注2)'フレイ(注3)'シュバルベルグ(注4)らによって1860年代から全く日本の伝統的文様の複写〔図1〕の他,日本へのイメージを膨らませた存在しないような不思議な植物を描いたもの〔図2〕,あるいは西洋的な図案との妙な組み合わせのもの〔図3〕などが多いと言える。これらの図案の出所についてはショーンノプの寄贈品の中に広重,歌麿,英泉,芳瀧〔図4〕の浮世絵,北斎漫画の表紙が含まれ広瀬緑-18 -

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