<弁天島経塚出土遺物〉弁天島経塚は太秦広隆寺旧寺域に築かれた経塚群で,16基の平安後期の経塚が営まれていた。これらの経塚から埋納品のうち銅製品としては,経筒のほか分銅・方鏡・佐波理銑・垂飾金具などが出土している。〔図1-4〕にそこから出土した遺物の一部を示す。法住寺殿最勝光院跡の遺物のほとんどが寺院の荘厳具であったのに対し,それとは系統の異なる品が出ている。柄香炉,方鏡,佐波理銑はスズの最が多く,白銅すなわち高錫青銅であるが,いずれも鉛を含んでいる。く長原遺跡出土遺物〉大阪市平野区長原遺跡では10世紀と考えられる地層より3点の佐波理婉が出土している。これら佐波理銑を分析したところ,そのうちの1点は亜鉛を5%程度含む銅錫合金であることを確認した。法隆寺や正倉院には黄銅(銅亜鉛合金)製の柄香炉や塔銑か伝わるが,これらの例を除けば,わが国で一般に亜鉛を含む金属が出現するのは従来漠然と鎌倉・室町時代頃からと考えられていた。長原遺跡の佐波理銑はあくまで銅錫をベースとする合金ではあるが,5%の亜鉛は不純物と考えてすまされる量ではなく,当時ある程度黄銅が普及・流通しており,黄銅のスクラップ等が,佐波理製造に利用された可能性も考慮しなければならない。く平安後期の銅製品の材質的特徴〉奈良時代の国産銅製品の特徴とし掲げた数%程度のヒ素の含有については平安後期の遺品にも確認することができた。このことは該期においてもヒ素の有無が国産品と将来品の区別の指標になる可能性を示している。黄銅は平安時代にもある程度普及していた可能性があり,今後追究すべき金属材料である。III.鳥羽離宮跡出土の木製品の樹種同定鳥羽離宮跡で出土した木製品のなかで,美術工芸史との関わりを持つ資料について,樹種の調査結果を示し,平安後期における用材選択の傾向について述べる。樹種同定は資料より小口面・板目面・柾目面の切片を採取してプレパラートを作製し,予め作製しておいた樹種の明かな木材試料のプレパラートと比較することにより行うものである。今回の研究のために製作した比較樹種試料の顕微鏡写真を添付した〔図2〕。-307-
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