これらの建築部材は建物のごく一部の資料であるが,部材表面にヤリガンナによる調整痕を持つものが多くみられ,本来離宮の建造物の一部に利用されていたものとみられる。その用材にヒノキ,スギが多く用いられているほか,コウヤマキが1点確認された。コウヤマキの利用例としては平城宮跡で多くの出土例が知られているように,高貴な建造物に用いられた。離宮の建造物の荘厳さを裏付けるものといえよう。このほか土木建築材(杭・板材)300点弱についても樹種の同定を行ったが,その結果については割愛した。w.蒔絵漆器の塗膜構造および蒔絵粉の材質鳥羽離宮金剛心院跡,平安京高陽院跡,福岡市博多遺跡から出土した蒔絵漆器の塗膜構造や金属粉の形態を明らかにするため,試料表面の顕微鏡観察のほか,塗膜断面のプレパラートを作成し,顕微鏡観察を行った。表面観察結果と断面構造観察の結果を〔図4〕に示す。また蒔絵粉の材質を明らかにするため,銅製品の調査と同様,蛍光X線分析を実施した。蒔絵粉の分析については従来肉眼観察や文献記載から,金,青金(金に銀を少量加えたもの),銀,白鐵(錫または錫鉛合金)の存在が知られていたが,近年化学的調査によって春日大社の蒔絵筆(9世紀)に銅粉の使用が,出雲大社の秋野鹿蒔絵手箱(13世紀)に黄銅粉の使用が確認される様になり,化学的な確認の必要性が増している。<烏羽離宮金剛心院跡出土蒔絵断片〉鳥羽離宮の推定金剛心院跡の池跡の堆積土中からは漆塗の仏像の断片などとともに蒔絵断片が出土している。資料はどれも1cm角にも満たない小破片であり,どのような場所に用いられていたものなのか定かではないが,建築装飾の一部と考えられ,中尊寺金色堂に代表される平安後期の建築装飾蒔絵の技術を解明するうえでの貴重な資料である。小破片は,金粉だけが蒔かれて研出されたものと,銀粉だけが蒔かれて研ぎ出されたものの両者が認められた。これらの蒔絵は文様になっておらず地蒔きの部分であるが,中尊寺金色堂の蒔柱に見られるように大きな文様の一部であるのかどうか詳細は明かでない。金蒔絵蛍光X線分析により金を確認している。表面観察した金の粒子は山吹色である。塗膜表面はやや荒れているが一方向に走行する研ぎの痕跡が認められる。粒子の-310-
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